心不全患者41人にIoTによる遠隔モニタリング実施、臨床的効果を検証
佐賀大学は4月25日、心不全患者における遠隔モニタリングの高次脳機能に対する有効性とその意義を解明したと発表した。この研究は、同大循環器内科の金子哲也氏、田中敦史氏、野出孝一氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension research誌」に掲載されている。

心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とされている。悪化によりしばしば入院を要することがあり、そのたびに心不全は悪化の一途を辿る。今後、高齢化および心不全患者のさらなる増加が予想される中で、いかに心不全の悪化を予防していくかが重要とされている。
今回のS-HOMES試験では、心不全患者計41人(平均年齢64.8±13.8歳、男性68.3%)に対して、IoTを用いた遠隔モニタリングを実施し、その臨床的効果を検証した。同研究で用いられた遠隔モニタリングシステムでは、患者自身が血圧や心拍数、体重を毎日測定し、その結果が自動的に医療機関へ遠隔データとしてアップされる。そのデータを選任の看護師が確認し、既定の閾値を超えた場合に担当医に知らせ、担当医から患者やその家族らへ連絡を行い、状態の確認や受診勧奨といったコーチングからなるケアサイクルを実施した。
遠隔モニタリングは心不全症状改善・実行機能改善に有効
研究の結果、12か月の観察において心不全症状の改善と同時に、高次脳機能の一つである実行機能の指標とされるTrail Making Test Part B(TMT-B)スコアが有意に改善していることが明らかになった。また、中央値20.5か月の追跡期間中、実行機能障害を有する患者における心不全よる入院の発生率は、実行機能障害を有さない患者よりも有意に高率であることも判明。さらに、認知機能障害を有さない患者群においても同様の結果であり、実行機能が心不全患者において予後を規定する因子である可能性が考えられた。以上の結果より、遠隔モニタリングは、心不全患者の実行機能の改善に有効であり、実行機能の改善へ向けた支持療法が心不全患者の予後改善につながることが示唆された。
心不全悪化による予定外の入院リスク抑制を示唆
今回の研究から、遠隔モニタリングをうまく使うことができれば、特に高齢心不全患者における実行機能改善などを通じて、心不全の悪化による予定外の入院リスクを抑制できる可能性が示唆された。そこで、今後の課題として、遠隔モニタリング体制や管理法は未だ世界的にも検討段階であり、より精度の高い遠隔モニタリングシステムの構築とその有効性に対する詳細な評価が必要とされている。また、同研究で示唆されたように、実行機能の改善に資するより適切な支持療法の開発や臨床応用についてもさらに検討していく必要があると考えられる。
高次脳機能の一つである実行機能は、心不全患者の自己管理において重要な能力と考えられる。しかし、心不全患者に対する実行機能についての研究は乏しいのが現状である。そのため、同研究から得られた知見は、心不全と実行機能との関連およびその臨床的意義を紐解く上で重要な知見をもたらすものと考える、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・佐賀大学 プレスリリース