補聴器の装着、高齢者の運動機能への影響は?
東京都健康長寿医療センター研究所は4月17日、少数のサンプルを対象とした予備的介入研究から、加齢性難聴患者が補聴器を装着することにより、認知機能のみならず歩行機能も改善する可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の桜井良太研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Audiology and Neurotology」オンライン版に掲載されている。

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高齢期の聴力低下は認知症発症や転倒発生、社会的孤立のリスク要因であることが知られている。そのため、補聴器の装着といった早期の介入が望まれており、それにより認知機能低下や社会的孤立の発生を予防する可能性が示されてきた。しかし、この補聴器装着が高齢者の運動機能にどのような影響を与えるかについては明らかではなかった。
歩行機能に着目、研究参加者10人の補聴器装着直後・装着1年後の影響を調査
そこで研究グループは歩行機能に着目し、その影響を検討した。今回の研究では、2020~2021年の間に、同医療センター耳鼻咽喉科にて加齢性難聴と診断され補聴器の装着を勧められた患者のうち、研究参加に同意した10人を研究参加者とした。研究参加者の補聴器装着直後と補聴器装着1年後に複合的な調査を行い、その影響を検討した。
補聴器装着、多方面にわたるポジティブな影響を確認
補聴器装着1年後調査の結果、補聴器の装着により、歩行中の1歩に要する時間が顕著に短縮した。これは、補聴器によって歩行時の足の動き(足の回転)が改善されたことを示している。さらに、このような歩行機能の向上に伴い、参加者の転倒に対する恐怖感が軽減されたことも確認された。加えて、全般的な認知機能(MoCA:Montreal Cognitive Assessment)、記憶機能(ロジカルメモリーテスト:遅延再生課題得点)、およびウェルビーイングの指標(WHO-5)においても改善が見られ、補聴器装着が多方面にわたるポジティブな影響をもたらすことが明らかになった。
これまでの研究から、聴覚が歩行動作に密接に関与していること、そして加齢性難聴者において歩行機能の低下が見られる傾向が明らかになっている。今回の研究は、少数のサンプルを対象としており、介入効果を厳密に検証する無作為化比較試験ではないため、解釈には注意が必要である。一方、同研究の結果は、加齢性難聴による聴力の低下を補聴器によって改善することで、歩行機能の向上が期待できる可能性を示唆している。このような補聴器の利点を踏まえると、「耳の聞こえの問題」に対する早期の対応が、安全で質の高い生活を実現するために重要であると考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース