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DNA複製制御の新機構発見、遺伝性疾患の病態解明や抗がん剤開発に期待-科学大ほか

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2025年04月28日 AM09:20

DNA二本鎖切断の修復酵素PNKPを欠損した細胞、増殖速度が非常に遅い原因は不明だった

東京科学大学は4月23日、哺乳類細胞においてDNA修復酵素であるPNKP(Polynucleotide kinase phosphatase)がDNA複製に関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大ゼロカーボンエネルギー研究所の島田幹男助教、塚田海馬博士研究員(現、コペンハーゲン大学博士研究員)、今村力也博士研究員(現、京都大学特定助教)、Fu Lingyan大学院生、松本義久教授、国立がん研究センター研究所RI研究施設の石合正道施設長らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

生物は常時、紫外線、放射線、乾燥や活性酸素など内外の環境ストレスに晒されており、細胞内のDNAには損傷が生じている。これらDNA損傷は突然変異、発がん、老化の原因となるため直ちに修復される必要がある。そのため生物はDNA損傷を修復するための分子機構を発達させており、この機構は単細胞生物である大腸菌から多細胞生物であるヒトまで広く保存されている。DNA修復機構は細胞の生存に重要なため、DNA修復に関与する遺伝子の機能に異常があるとヒトではさまざまな疾患が発症することが知られている。

DNA損傷はその形状から塩基損傷、DNA一本鎖切断、DNA二本鎖切断などさまざまな種類に分類され、その修復に関与する酵素も多岐にわたる。DNA修復酵素であるPNKPはDNAの末端をリン酸化あるいは脱リン酸化する活性を持つ酵素で、研究グループはこれまでにPNKPが塩基損傷、DNA一本鎖切断の修復、非相同末端結合を介したDNA二本鎖切断の修復に関与することを解明していた。一方で遺伝子改変マウスを用いた研究において、Pnkp欠損マウス細胞の増殖速度が非常に遅いことを発見していたが、この現象をDNA修復の欠損だけで説明することは困難だった。また、PNKPはMCSZ、AOA4、CMT2B2といった3種類の遺伝性神経疾患の原因遺伝子として同定されているが、この遺伝子から作られる酵素であるPNKPの機能がどのように神経疾患に関与するかは不明だった。

PNKP欠損細胞、DNA複製のスピード制御できず増殖遅延

今回の研究では、まず、ゲノム編集を用いてPNKP遺伝子を欠損したヒトの培養細胞を作製し、PNKP欠損ヒト細胞でもPNKP欠損マウス細胞と同様に増殖速度が遅いことを確認した。細胞増殖の遅延は、DNA複製の進み具合に異常があると生じる場合があるので、PNKP欠損ヒト細胞のDNA複製スピードを、DNAファイバーアッセイ法を用いて計測した。その結果、野生型細胞と比較して複製スピードは速くなっていた。こういった現象は他のDNA複製異常を示す細胞でも確認されており、DNA複製タンパク質の機能の異常により、DNA複製のスピードが制御できなくなり、結果的に細胞増殖が遅延すると考えられる。

CDKsにより118番スレオニンリン酸化、岡崎フラグメントに集積しギャップ構造修飾

さらに解析を進めた結果、DNA合成期にサイクリン依存性リン酸化酵素であるCDKsによってPNKPの118番アミノ酸のスレオニンがリン酸化されると、PNKPはDNA複製の中間体である岡崎フラグメントに集積しフラグメント間のギャップ構造を修飾する役割を持つことが明らかになった。

遺伝性神経疾患の病態解明や、新たな抗がん剤開発につながると期待

今回の研究成果により、PNKPと遺伝性神経疾患の関係に新たな知見がもたらされ、疾患病態の解明に寄与することが期待される。また、PNKPをはじめとしたDNA修復酵素やDNA複製酵素は、細胞の増殖や恒常性に必要不可欠な役割を担っている。これらの因子を阻害することによって、細胞増殖が盛んながん細胞の増殖を阻害できると考えられるため、抗がん剤の標的となる可能性も期待されている。

「今後はPNKPと疾患の関係をさらに詳細に解析するためにiPS細胞や試験管中でミニチュア臓器を作製する組織オルガノイド技術を駆使して、PNKPが関与する細胞増殖、細胞分化の関係の研究を進めていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。

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