疼痛症状を伴う膵石、内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕治療の適応となる
関西医科大学は4月15日、無症状の膵石を伴う慢性膵炎の患者に対して内視鏡的治療の現状を調査し、内視鏡による治療介入のメリット、デメリットを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学第三講座の池浦司准教授らと、一般社団法人日本膵臓学会を中心とした慢性膵炎の研究グループ(Japan Pancreatitis Study Group of CP)によるもの。研究成果は、「Digestive Endoscopy」に掲載されている。

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膵臓には腺房細胞と内分泌細胞が存在し、前者では膵酵素(アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど)、後者ではホルモン(インスリンなど)を産生する。膵酵素は膵臓内を走る膵管を介して十二指腸に流出し、食物を消化する(膵外分泌機能)。一方、ホルモン、特にインスリンは血中に放出され血糖値をコントロールしている(膵内分泌機能)。つまり、膵臓は内分泌機能と外分泌機能の2つを併せ持った臓器である。
慢性膵炎は、習慣的な過剰飲酒などにより膵臓内で膵酵素の活性化が起こり、自らの膵臓が持続的に消化される膵臓の慢性炎症性疾患である。病態が進行すると膵内の線維化が顕著となり、膵臓の機能は荒廃し、外分泌機能不全(脂肪便や栄養不良)や内分泌機能不全(糖尿病の発症・悪化)が生じる。また、慢性膵炎では、膵内の石灰化(膵石)や膵萎縮が起こり、特に膵石は膵液の流出障害の原因となり、腹痛や背部痛などの疼痛症状や慢性膵炎の病態進行につながるとされている。そのため、疼痛症状を伴う膵石は、内視鏡を使った膵石除去(内視鏡治療)や体外衝撃波結石破砕治療の適応となる。これらの処置により膵石を完全に除去できた場合は、疼痛症状が消失するのみならず、膵液の流出障害も改善することから、膵臓の外分泌・内分泌機能の低下も予防できると考えられてきた。
無症状の膵石は内視鏡治療で除去すべきか
膵石に対する内視鏡治療は、まず内視鏡を十二指腸に進め、主乳頭にある膵液が流出する膵管の出口(膵管口)にカテーテルを挿入し、膵石の存在場所・大きさ・個数などを確認する。膵石を除去するために膵管口に電気メスで切開を加え、膵管口を大きくしたのち、バスケットと呼ばれる金属の網で膵石を把持し、そのまま十二指腸へと膵石を引き出す。一方、膵石は非常に硬く、また慢性膵炎により膵管には狭窄を伴うケースもあるため、内視鏡治療が難渋することも珍しくなく、思うように膵石が除去できないケースもある。また、出血、穿孔、膵炎、膵管損傷などの合併症についても注意する必要がある。従って、膵石を認めるものの疼痛症状のない無症状の患者においては、苦痛やリスクを伴うかもしれない内視鏡治療を行うかどうかはしっかりと吟味する必要がある。
以上のように、無症状の膵石に対して内視鏡治療を行うべきかどうかはわかっておらず、その治療適応の判断は個々の医師の判断や患者の希望により行われてきた。そこで、本研究では無症状の膵石に対して内視鏡治療を行うことの功罪を明らかにするため臨床研究を行った。
国内227例のデータを解析、完全除去・不完全除去・内視鏡治療なしで悪化イベント発生を評価
無症状の膵石に対する内視鏡治療を明らかにするため、一般社団法人日本膵臓学会を中心とした慢性膵炎の研究グループ(Japan Pancreatitis Study Group of CP)において多施設共同研究を実施した。
この研究では、国内の24施設から無症状の膵石を持つ慢性膵炎患者268例のデータを収集し、このうち6か月以上の経過が判明している227例を対象に予後の調査を行った。予後の調査では、内視鏡治療で標的膵石をすべて除去できた群(完全除去群)36例、内視鏡治療を実施したがすべて標的膵石を除去できなかった群(不完全除去群)80例、内視鏡治療を実施せず保存的に経過観察した群(内視鏡治療なし群)111例の3群に分け、慢性膵炎の病態悪化を示唆する以下の3つのイベントの発生について統計解析している。
膵萎縮の累積発生率は完全除去群で低、糖尿病・疼痛症状リスクは不完全除去群で高いと判明
227例のうち内視鏡治療は116例に行われていた。内視鏡治療の実施回数の中央値は4回であり、67%の症例で体外衝撃波結石破砕治療が併用されていた。内視鏡治療により標的膵石をすべて除去できたのは36例(31%)だった。内視鏡治療の合併症は8%にみられ、処置による膵炎(いずれも中等症または軽症)がもっとも多い合併症だった。
膵石と診断されてから5年経過した時点での、膵萎縮の累積発生率は、完全除去群で38%、不完全除去群で57.2%、内視鏡治療なし群で70.8%であり、完全除去群で最も低いことがわかった。また、標的膵石の完全除去に成功すると、内視鏡治療を行わなかった場合に比べ膵萎縮のリスクが低下することが明らかになった。
次に、糖尿病の発症または悪化の累積発生率は、完全除去群で22.4%、不完全除去群で36.1%、内視鏡治療なし群で21.2%であり、不完全除去群で最も高くなっていた。また、標的膵石の不完全除去は、内視鏡治療を行わなかった場合に比べ糖尿病の発症または悪化のリスクが約2倍上昇することがわかった。
最後に、疼痛症状の累積発生率は、完全除去群で7.6%、不完全除去群で20.2%、内視鏡治療なし群で4.4%であり、糖尿病と同じく不完全除去群で最も高くなっていた。また、標的膵石の不完全除去は、内視鏡治療を行わなかった場合に比べ疼痛症状の発生リスクが約4倍上昇することがわかった。
長期経過観察での栄養状態の変化も調査したが、完全除去群、不完全除去群、内視鏡治療の3群に差はなかった。
無症状膵石の内視鏡治療、膵萎縮がなく完全除去できる見込みの症例に限定すべきと示唆
今回の結果から、無症状の膵石に対して内視鏡治療を開始し標的膵石の完全除去に成功すると、内視鏡治療を行わなかったケースに比べ膵萎縮のリスクは低下するが、糖尿病の悪化は抑制できないことがわかった。また、内視鏡治療を行ったにもかかわらず、標的膵石の完全除去に至らなかった場合は、内視鏡治療を行わなかったケースに比べ糖尿病の悪化や疼痛症状の出現のリスク上昇が確認された。
「以上の結果から、無症状の膵石に対して内視鏡治療を検討する際は、治療開始時に膵萎縮がなく、内視鏡治療により膵石を完全除去できる見込みのある症例に限定すべきであると考えられた。一方で、内視鏡治療では糖尿病の悪化や疼痛症状の出現のリスクを低下させることができないことや内視鏡治療には合併症のリスクがあることも十分留意する必要があると考えられた」と、研究グループは述べている。
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