高速度スプリント走、コーチングに非言語デバイスであるメトロノーム利用の効果は?
早稲田大学は4月11日、聴覚ガイド(メトロノーム)を用いて中学生のスプリント走におけるピッチとストライドの調整効果を明らかにし、スプリント走動作を調整させる指導法を実証したと発表した。この研究は、同大スポーツ科学研究科の長谷伸之助氏(研究当時修士課程、現博士課程)、スポーツ科学学術院の中川剣人講師(現在、上武大学ビジネス情報学部・准教授)、礒繁雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS One」に掲載されている。

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スポーツ現場におけるコーチングでは、コーチの指示や言葉かけによって選手のパフォーマンスが変化することが報告されている。一方で、指示や言葉かけによる指導効果は、選手のスキルレベルや指示内容にも影響を受けることが報告されている。そのため、言語や選手の理解度に依存しない非言語デバイス(音楽やメトロノームなど)によるコーチングが注目されている。過去の研究では、音楽やメトロノームを用いた聴覚ガイドが低速度のジョギングや長距離のランニングにおけるピッチに影響を与えることは報告されていたが、高速度のスプリント走における具体的な効果については十分な検証がなされていなかった。
中学生対象にテンポ別スプリント走中のピッチ・ストライドなどをビデオカメラで測定、解析
今回の研究では、先行研究で使用されていた聴覚ガイドのテンポを参考に、被験者である中学生の自然なスプリント走中のピッチに基づきテンポが遅い(90%)および速い(110%)メトロノームを設定し、スプリント走中のピッチ、ストライド、走速度などの各パラメータをビデオカメラで測定し、解析した。
遅いテンポはストライド増、速いテンポはピッチ増
研究の結果、遅いテンポの条件では、ピッチが減少した代わりにストライドが増加し、速いテンポではピッチが増加することが明らかとなった。走速度は、ピッチとストライドの積で決まるため、ピッチもしくはストライドを操作し、変化させることは、スプリント走のトレーニングにおいてパフォーマンス向上に寄与する指導法になる可能性がある。ただし、ピッチとストライドは互いに負の相互作用があるとされ、一方が増加すると他方が減少する傾向があるため、スプリント走におけるコーチングでは、選手の個々のランニング動作やタイプを踏まえたうえでスプリント走動作の最適化を図る必要がある。
実践的なトレーニング指導法確立に期待
同研究成果は、個々のスプリント走動作を最適化するトレーニング手法として、陸上競技の指導法に革新をもたらすとともに、健康増進やフィットネス分野への応用も期待される。また、聴覚ガイドは非言語デバイスであるため、幅広い年代を対象に適用できる可能性がある。ピッチは変化したもののメトロノームのテンポにスプリント走のピッチを同期させる課題に被験者の注意が向き、スプリント走速度が低下した傾向も見られた。そのため、聴覚ガイドのテンポ設定の最適化や走速度が統制された測定環境(例:トレッドミル)での音によるピッチの変化を検証することで、より実践的なトレーニング指導法が確立できると考えられる、と研究グループは述べている。
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・早稲田大学 プレスリリース