アレルギーの血液検査、中小の医療機関では結果が出るまで時間がかかる
理化学研究所は4月10日、特異的IgE抗体測定キット「ドロップスクリーンST-1」を用い、小児アレルギー診療における多項目検査の有用性を調べ、アレルゲンの種類や患者の感作状態における類型パターンを見出したと発表した。この研究は、同研究所開拓研究本部伊藤ナノ医工学研究室の伊藤嘉浩主任研究員(現・光量子工学研究センター先端レーザー加工研究チーム客員主管研究員)、創発物性科学研究センター創発生体工学材料研究チームの秋元淳研究員(現・光量子工学研究センター先端レーザー加工研究チーム客員研究員)ら研究グループによるもの。研究成果は、「アレルギー」に掲載されている。

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アレルギー疾患の診療では、問診に加えて血液検査や皮膚テストなどのアレルギー検査を行い、原因アレルゲンを特定することで、症状を抑えるための治療を行う。血液検査では、特定のアレルゲンに感作されて反応する「特異的IgE抗体」の量を調べることで、アレルギーの原因となる物質を特定する。
アレルギーの血液検査方法には、単項目測定法と多項目測定法の2種類がある。単項目測定法は、検査結果の感度と精度が高く、アレルギー診断で使用が奨励されている。一方、多項目測定法は、あらかじめ決められたアレルゲン項目(約30項目)を同時に検査できる利点がある。しかし、中小の医療機関では、いずれの測定法でも採取した血液を検査センターに送り、検査センターで血液を検査するため、血液を採取してから検査結果を得るために数日かかっていた。
血液少量・短時間・多項目のアレルギー検査キットを開発、その有用性を検証
これまでに研究グループは、生体由来の物質などの有機化合物であれば何でも基板に固定化できる「何でも固定化法」を考案した。その固定化法を用いて、さまざまなアレルゲンをタンパク質チップとして基板に固定化し、かつそれらに対する特異的IgE抗体量を同時に測定できる特異的IgE抗体測定キット「ドロップスクリーンST-1」(以下、ドロップスクリーン)を日本ケミファ株式会社とともに開発した。
ドロップスクリーンは、指先からの20μLの全血で、41種類のアレルゲンに対する特異的IgE抗体量を診察室やベッドサイドにおいて30分で測定できるという特徴を持つ。2020年2月から日本で保険収載体外診断薬として販売されており、中小の医療機関でも現場で直ちに検査結果を得ることができる。血液中のポリクローナル抗体を高効率で定量的に検出することも可能だ。この技術はアレルゲンコンポーネント(粗抽出アレルゲンに含まれる原因タンパク質)に対する多項目抗体量測定も可能であり、新たなアレルギー検査としての有用性が期待されている。
そこで今回の研究では、単項目測定法の従来法とドロップスクリーンの相関性を評価し、小児アレルギー診療における多項目検査の有用性を調べた。
3歳未満の乳幼児で、従来の単項目測定法と同等の感度と精度を確認
国立病院機構相模原病院アレルギー科外来を受診した3歳未満の乳幼児(244人)の血清を用いて、ドロップスクリーンと従来法により特異的IgE抗体量を測定した。測定値に基づいて7つのクラスに分け、クラスごとにドロップスクリーンと従来法のクラス一致率を求めた結果、陽性一致率、陰性一致率、全体の判定一致率は、それぞれ93.5%、93.0%、89.3%だった。これらの一致率は、これまで報告されている特異的IgE抗体検査法を比較したデータと比べても高く、ドロップスクリーンが従来の単項目測定法と同様の感度と精度で特異的IgE抗体量を測定できることがわかった。
多項目測定の結果から感作状態をパターン分類できる
次に、ドロップスクリーンで測定した特異的IgE抗体量を用いて非階層クラスター分析(先にクラスター数を決めてからデータをグループ化する方法)を行った。その結果、適正に対象者の感作状態のパターンを分類できることが判明した。
クラスター分析の結果について、クラスター間の関連性をフィッシャー(Fisher)の正確確率検定により解析して検証した。クラスター間の関連性は、偶然の一致を統計的に表す有意確率が9.999×10-5と非常に低く、有意なクラスター形成であることを確認できた。
3歳未満では全ての患者で卵白・オボムコイド・牛乳への感作率が高い
クラスター分析の結果から、卵白、オボムコイド(卵アレルギーを起こす成分)、牛乳を含むアレルゲン軸は、どの患者軸クラスターでも感作率が高いことがわかった。一方、ダニ類を含むアレルゲン軸は特定の患者軸クラスターでのみ高い感作率を示した。
食物および吸入抗原への感作は年齢により異なることが知られている。今回の研究の対象年齢は3歳未満と低いため、アレルギー疾患、特に食物アレルギーとアトピー性皮膚炎を合併する患者が多くなっていた。そのため、卵白、オボムコイド、牛乳へ高い感作率が多くの患者で見られたと考えられた。
新たなアレルギー診療への貢献に期待
今回の研究により、ドロップスクリーンが感度と精度が高い単項目測定法と同等の性能で特異的IgE抗体量を測定することができることがわかった。また、ドロップスクリーンで測定した特異的IgE抗体量をクラスター分析することにより、アレルゲンや患者に一定の感作パターンがあり、多項目検査をすることで患者の感作状態をパターン分類できることが示された。今後、ドロップスクリーンなどによる多項目同時測定のデータが蓄積されていけば、より精度が高い感作パターンが見いだされる可能性がある。
「患者の感作状態をパターン分類することで、アレルギー疾患の進行状況や症状を予測できるようになることが期待される。その予測によって、アレルギー症状が悪化する前に治療を開始することが可能となるかもしれない」と、研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース