irAE様肺傷害に関わる免疫細胞の解明へ
京都大学は4月11日、免疫チェックポイント阻害療法に伴い副反応として発生する肺傷害の要因となる免疫応答を明らかにしたと発表した。この研究は、同大がん免疫総合研究センターの塚本博丈特定准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」オンライン版に掲載されている。

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PD-(L)1阻害療法は、がんを排除する免疫応答を活性化すると同時に、通常は抑制されている自己の組織に対する免疫応答も同時に活性化し、臓器傷害を引き起こす場合がある。これは免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)と呼ばれ、特に肺傷害は死に至るリスクが高く、治療中断が余儀なくされるため、そのマネジメント戦略の確立が求められている。しかし、肺傷害を引き起こす要因となる免疫細胞、およびその応答は依然不明だった。
これまでに研究グループは、老齢担がんマウスに対してPD-(L)1阻害療法を施行するとT細胞・B細胞にて構成される異所性リンパ節様構造(tertiary lymphoid structure:TLS)を伴う肺傷害が起こることを見出していた。そこで今回の研究では、これをirAE実験モデルとして活用し、肺傷害発生の機序解明を試みた。
PD-1阻害療法を受けた老齢担がんマウスでICOS陽性CD4T細胞を多く確認
老齢担がんマウスにてCD4T細胞を体内から除去すると、PD-1阻害療法により誘導される肺組織への抗体沈着、および肺傷害は観察されなくなり、病態が改善される。このことから、irAE様肺傷害にCD4T細胞が関与することが予想された。その特徴を明らかにするために、PD-1阻害療法を受けた若齢、および老齢マウスの肺組織中のCD4T細胞のシングルセルRNA発現解析を行った結果、老齢肺には多くの共刺激分子ICOS発現CD4T細胞が存在することがわかった。実際、老齢マウスでは、PD-(L)1阻害療法によりCD4T細胞におけるICOSの発現が増強し、肺TLSにてICOS陽性CD4T細胞がB細胞と相互作用する様子が観察された。そのため、ICOS陽性CD4T細胞が肺傷害の発症に寄与する可能性が推測された。
抗ICOSL抗体投与で肺組織中のTLS縮小、B細胞から分化する抗体産生細胞も減少
ウイルス感染症においてT細胞が発現するICOSは、リンパ節にてB細胞が発現するICOSLと相互作用し、自身のさらなる活性化、そしてB細胞の分化および抗体産生を促進することが知られている。そこで、自己抗体沈着を伴う肺傷害に対するICOSの役割を検討するため、ICOS-ICOSLの相互作用を遮断する抗ICOSL抗体をPD-(L)1阻害療法を受けた老齢マウスへ投与し、その効果を解析した。その結果、肺組織中のTLSが縮小し、B細胞から分化する抗体産生細胞である形質細胞も減少した。また、肺傷害の指標である肺サーファクタントタンパク質D(SP-D)の血中濃度上昇と肺機能低下が改善した。一方、ICOSシグナルの阻害は、PD-(L)1阻害療法による抗腫瘍効果に影響しなかった。
ICOS陽性CD4T細胞はヒトの発症予測指標に、CXCL13も単独で予測因子になり得る
さらに、老齢マウスの解析から、ICOS陽性CD4T細胞はPD-(L)1阻害療法により誘導される肺傷害に寄与することが明らかになり、この細胞は治療開始直後から肺組織のみならず血中でも増加が観察されたことから、血中ICOS陽性CD4T細胞の増加は、肺傷害の発症予測に応用できると考えられた。
この仮説に基づき、肺がん患者のPD-(L)1阻害療法の施行前から加療中における血中ICOS陽性CD4T細胞の変化を検討した結果、irAE肺傷害(肺臓炎)を発症した患者では、irAEを発症しなかった患者に比べてこの細胞の頻度の増加が認められた。ICOS陽性CD4T細胞、およびB細胞遊走因子(ケモカイン)であるCXCL13の変化は単独でもirAE肺臓炎の発症予測因子となり得るが、さらに両因子を組み合わせることで、より精度高く肺臓炎発症を予測できる可能性を見出した。
高齢がん患者の病態理解を目指した研究への発展に期待
今回の研究で、irAE肺傷害の発症の要因として1つの免疫応答を明らかにし、それらの発症予測因子としての有望性が示された。がんに対する免疫応答とirAEマネジメントの両立を考える上では、今後さらなる解析を実施し、ICOS陽性CD4T細胞の両反応への影響、さらに肺傷害以外のirAE発症における意義を検証する必要がある。「老齢マウスから得られた本研究結果と合致して、irAE肺臓炎等の発症リスクが高齢がん患者で高いことが報告されていることから、高齢がん患者の病態理解を目指した研究への発展も考えられる」と、研究グループは述べている。
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