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健康な日本人女性の腟内細菌叢を4タイプに分類-北里大ほか

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2025年04月18日 AM09:20

ヒトと常在細菌との相互作用、正しい理解には生菌数に基づく研究実施が不可欠

北里大学は4月8日、健康な日本人女性の腟内細菌叢は個人間で大きく異なることを発見したと発表した。この研究は、同大薬学部の伊藤雅洋助教、株式会社ハナミスイの名知英樹研究員らの研究グループと、代官山ウィメンズクリニックの佐藤陽一医師との共同研究によるもの。研究成果は、「Frontiers in Cellular and Infection Microbiology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒト成年期の女性生殖器、特に膣には、乳酸桿菌属に属するL. crispatus, L. iners, L. gasseriまたはL. jenseniiのいずれか1菌種が主に常在していると報告されている。乳酸桿菌は代謝産物として乳酸を産生し、膣内pHを低下させることで細菌性膣症(Bacterial vaginosis: BV)やHIVの感染リスク、早産の発症リスクを低下させるほか、体外受精後の出生率を上昇させるなど女性生殖器の健康に寄与すると考えられている。中でも、L. crispatusが膣内最優勢細菌である女性では、L. inersが膣内最優勢細菌である女性と比較して早産や子宮頸がん罹患率、不妊率も有意に低いと報告されている。

一方、偏性嫌気性細菌が主に常在している膣内細菌叢では、BVに関連する細菌(Gardonerella vaginalisなど)が高頻度で検出される特徴を有している。BVはしばしば無症候性だが、早産や性感染症、HIVの発症または感染リスクを顕著に上昇させるなど、産婦人科領域における深刻な合併症に関連することが知られている。

これまで膣内細菌叢は主に16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を指標とした微生物叢解析が行われてきた。しかし、この手法では細菌の割合(組成比)の変動等は効果的に検出できるが、細菌叢全体の存在量(生菌数)の変動はほとんど見落とされてきた。ヒトと常在細菌との相互作用を正しく理解するためには、細菌叢の組成比のみに頼るのではなく、生菌数に基づく研究を実施することが不可欠だと考えた。

最も多く存在する膣内細菌叢はL. crispatus、次いでL. inersで過去の研究と同じ結果に

研究参加者24人は全て閉経前の女性。そのうち12人はピルを服用中であり、2人(ID 116, 126)は月経周期中、2人(ID 112, 113)は妊娠中だった。クリニックにて膣粘液を採取後、DNAを抽出し、得られたDNAについてアンプリコンシークエンシング解析を行った。

その結果、24検体中9検体においてL. crispatus(community state type 1: CST1と分類される)が膣内最優勢細菌種だった(37.5%)。L. iners(CST III)は8検体(33.3%)、L. gasseri(CST II)は1検体のみ検出された(4.2%)。乳酸桿菌の次に多かった膣内細菌はGardnerellaで3検体、次いでFannyhessea, Anaerococcus, Streptococcusが各1検体だった(CST IV: 25.0%)。同様に、日本人女性の膣内細菌叢をアンプリコンシークエンシングを用いて解析したこれまでの報告では、最も多く存在する膣内細菌叢はL. crispatus(40.2~50.0%)、次いでL. iners(25.0~27.8%)であり、これらの報告と同研究結果はほぼ同一だった。

腸内細菌叢と比較して、膣内細菌叢における生菌数の個人差は「大」

各細菌の生菌数の合計として計算された膣液中の生菌数は、平均1.3×108 CFU/mLだった。膣液中の生菌数は最も多かった検体では1.0×109 CFU/mL(ID 121)だった。一方、最も少なかった検体では3.2×104 CFU/mL(ID 107)だった。それぞれGardnerella, Anaerococcusが最優勢細菌種と同定された。最も生菌数が多い検体と最も少ない検体との生菌数の差は3万倍だった。乳酸桿菌については、L. crispatusが最優勢である検体において生菌数は最も多く、生菌数が最も多かった検体では4.3×108 CFU/mL(ID 111)だったのに対し、最も少なかった検体では6.3×106 CFU/mL(ID 123)であり、70倍以上の差が認められた。健康な人の生菌数には10倍の差が認められている腸内細菌叢と比較して、膣内細菌叢における生菌数の個人差は大きかった。

一般的に生きた細菌だけに存在するrRNA分子を標的とする定量的RT-PCR(RT-qPCR)は、qPCRや蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)と同等の感度でヒトの腸内細菌を定量し、腸内細菌叢におけるいくつかの個人間の生菌数の差を明らかにしている。健康な日本人女性の膣内細菌叢をRT-qPCRで解析した結果では、乳酸桿菌が最優勢の細菌叢では乳酸桿菌の総生菌数が10個/mL以上であった一方、G. vaginalisの生菌数は108.8 個/mLと最も多かったことが報告されている。同研究において、培養法を用いて決定された膣内の生菌数がRT-qPCR解析の結果とほぼ一致することが示され、膣内の生菌数を定量する培養法の正確性が示された。ただし、培養法およびコロニーPCRによる解析結果とアンプリコンシークエンシングによる解析結果を比較し、主にL. inersの検出結果に大きな違いが認められた。これは、膣内にて生存はしているが培養不可能な状態(VBNC: Viable But Not Culturable)のL. inersが存在している、あるいは次世代シーケンシング法では死滅したL. inersを検出していたことに起因すると考えられた。

さらに、培養法およびコロニーPCRによる解析では、FannyhesseaとAnaerococcusはコロニーPCRによる解析対象ではなかったため、同定できなかった。培養法によっては最も一般的な細菌を正確に同定することができたが、より正確な解析のためには、Fannyhessea, Anaerococcus, Sneathia, MegasphaeraなどのBV関連細菌を含む、追加のプライマーセットを用いた解析が必要であると考えられた。

膣内pH、膣粘液中の生菌数と統計学的に有意な負の相関関係あり

同研究では、50µlの膣粘液にて小数点以下2桁までの測定が可能であるサンプリングペーパ一付きのpHメーターを用いて膣内pHを測定した。膣粘液中の最優勢細菌種が乳酸桿菌である細菌叢の膣内pHは4.5以下であることが報告されている。一方、乳酸桿菌の割合が低下することは、嫌気性細菌の増殖と膣内pHが4.5を超えることを特徴とするBVと関連することが知られている。

同研究において、pH≤4.5グループの最優勢細菌種は全て乳酸桿菌だったが、最優勢細菌種としてBV関連細菌が検出された検体では全てpH>4.5であった。pH≤4.5だった検体では、乳酸桿菌が占める割合は90%以上であり、pHが最も低い5検体の最優勢細菌種は全てL. crispatusだった。膣内pHは膣粘液中の生菌数と統計学的に有意な負の相関関係があることが示唆された。

低体重では乳酸桿菌の膣内生菌数が減少し、膣内細菌叢の安定性低下の可能性

世界保健機関(WHO)により過体重に分類されるBMI>25kg/m2 の女性や、低体重に分類されBMI<18.5kg/m2 の女性では、Gardnerella PrevotellaなどのBV関連菌の検出率が高いことが報告されている。そこで、BMIが膣内細菌叢に影響を及ぼす影響を解析したところ、正常体重の女性( 18.5~24.9kg/m2 )における膣内細菌叢に占める乳酸桿菌の割合は、低体重の女性(BMI 18.5kg/m2 未満)と比較し統計的に有意に高いことが示された。さらに、BMIと膣内の生菌数には統計学的に有意な正の相関があること、BMIと膣内pHには統計学的に有意な負の相関があることが明らかになった。

同研究におけるBMIは全て22kg/m2 以下だったが、これらの結果はBMIが膣内生菌数や膣内pHと関連していることを示している。低体重だと乳酸桿菌の膣内生菌数を減少するのとともに、膣内pHを上昇させることにより膣内細菌叢の安定性を低下させる可能性が考えられた。

40~50歳の女性は40歳未満と比べ膣内pH「高」、年齢が影響する可能性

これまでに40歳未満の女性では膣内細菌の構成は比較的一定であった一方、40歳以上の女性では安定していないことが報告されている。このことは、40~50歳は膣内マイクロバイオームがより脆弱になる重要な時期である可能性を示唆している。乳酸桿菌が最優勢細菌である検体の割合および各検体中における乳酸桿菌の占める割合は、40歳未満群と40~50歳グループとの間に有意差は認められなかった。また、生菌数についても有意差は認められなかった。一方、40歳未満の女性の膣内pHは40~50歳群の女性のそれよりも統計学的に有意に低い結果が得られた。

これらの結果から、40~50歳の女性は、閉経期を反映して、膣内細菌の総数に顕著な変化を受けることなく、膣内pHに大きな影響を及ぼすことが示唆された。40歳以上でpHが平均を上回った検体は全て45歳以上の参加者から採取されたものであった。40~50歳の女性の一部は更年期に分類され、この時期性ホルモンであるエストロゲンレベルは周期的に閉経後レベルまで低下することが知られている。また、更年期におけるエストロゲンの減少により膣内pHが上昇することも指摘されている。一方、更年期の生物学的メカニズムは複雑であるとも指摘されている。生存可能な膣内細菌の総数に大きな変化がないにも関わらず膣内pHが上昇する正確な生物学的メカニズムは依然として不明だが、この年齢層の女性の膣内pH値は、膣内マイクロバイオームの状況を判断する良い指標の一つになり得ると考えられた。

女性生殖器疾患と関連する膣内マイクロバイオームの構成や存在量の解明が今後も重要

膣内最優勢細菌種に基づき、健康な成人日本人女性の膣内細菌叢は4つのタイプに分類できた。また、相対分析と定量分析を組み合わせることで、膣粘液中の生菌総数には個人差があり、膣内生菌数は膣内pHと負の相関があることも明らかになった。さらに、BMIや年齢などの因子が膣内マイクロバイオームに影響を与えることも明らかになり、個人間の膣内は多様であると示された。膣内マイクロバイオームは膣内環境の恒常性維持に重要な役割を果たし、女性生殖器疾患と密接に関連していると考えられていることから、その構成や存在量を明らかにすることは重要と考えられている。

「今後はDNAの存在量に基づき検出される細菌の種類やその割合だけでなく、生菌数も考慮した膣内マイクロバイオーム研究がヒトと膣内細菌との相互作用を正しく理解するために必要と考えられた」と、研究グループは述べている。

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