更新されたGL基準とEPOCH-JAPAN研究データで再調査
東邦大学は2月20日、全国の疫学研究(EPOCH-JAPAN研究)から得られた7万人の10年間追跡データを基に、「高血圧治療ガイドライン2019」の血圧基準による脳心血管疾患死亡リスクを定量的に明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部社会医学講座医療統計学分野の村上義孝教授、東北医科薬科大学医学部公衆衛生学・衛生学教室の佐藤倫広講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension Research」オンライン版に掲載されている。

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高血圧は世界的に脳心血管疾患の主要なリスク要因として知られており、その予防と管理は現代の医療における重要な課題となっている。全国の循環器疾患に関わるコホート研究データを統合したEPOCH-JAPAN研究は、過去に血圧と脳心血管疾患死亡リスクとの関連を示しており、これが高血圧治療ガイドラインの疫学データの主体として参照されていた。今回の研究では、更新されたEPOCH-JAPAN研究データを用い、現在の基準値に従った血圧分類と脳心血管疾患死亡リスクとの関連を解析することで、現状のエビデンスのアップデートを試みた。
高血圧未治療者のうち「I度高血圧」の集団、脳心血管疾患死亡数増に最も寄与
日本で実施される10の疫学研究(コホート研究)データを統合し、7万人(平均年齢59.1歳、女性57.1%)を対象としたデータを解析した。追跡期間は平均9.9年間、脳心血管疾患死亡が2,304例含まれる統合データだった。
高血圧未治療者に限って解析したところ、高い血圧分類になるに従い脳心血管疾患死亡リスクが段階的に増加しており、これは特に非高齢者で明瞭であることがわかった。集団寄与危険割合を求めたところ、I度高血圧の集団が脳心血管疾患死亡数の増加に最も寄与していた。
脳出血による死亡の57.1%が高血圧に起因すると推定
また、高血圧治療者を高血圧群に含めた場合、高血圧によって引き起こされた脳心血管疾患死亡の割合は全体では41.1%、非高齢者である40~64歳では51.3%、高齢者である65~89歳は29.5%と推算された。つまり、高血圧を予防することでこれらの割合の脳心血管疾患死亡を抑制できると考えられる。
疾患別の分析では、特に脳出血による死亡において高血圧の影響が顕著だった。データ解析の結果、脳出血による死亡の57.1%が高血圧に起因すると推定された。脳出血は特にアジア人種で多い脳心血管疾患であり、日本人においても血圧管理が極めて重要であることを示唆している。
血圧が低い集団を含めた集団全体の血圧を下げるというアプローチが重要
研究により、現在の血圧基準による脳心血管疾患死亡リスクが明らかになり、特に若年・中年期からの血圧管理の重要性が示された。高血圧の中でも比較的血圧が低い群が脳心血管疾患死亡数の増加に強く寄与していたことは、血圧が低い集団を含めた集団全体の血圧を下げるというポピュレーションアプローチの重要性を示している。医療現場での血圧管理や生活習慣改善の指導、さらには公衆衛生施策の立案にこれらの知見が活用されることが期待される。
「今後は、追跡中の治療状況、家庭血圧などの非医療環境下で得られる精密な血圧データ、そして現代の生活習慣を反映したデータを考慮することで、高血圧の疾患への影響をより正確に明らかにできる可能性がある。これらの研究を通じて、日本人の脳心血管疾患予防に向けたより効果的な対策の提案につなげていきたい」と、研究グループは述べている。
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