「オベシティ・スティグマ」は肥満症治療の妨げに?
日本イーライリリー株式会社と田辺三菱製薬株式会社は2月27日、肥満症患者、医師、および一般生活者を対象に意識調査を行い、その結果、肥満に至る理由について、一般生活者の7割、肥満症患者の9割近くが「本人の責任」であると認識していることがわかったと発表した。

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肥満症は、肥満かつ肥満に起因ないし関連する健康障害がある状態の慢性疾患。肥満に至る要因は、個人の生活習慣のみならず、遺伝や環境、身体的、心理的、また社会的な要因などが複合的に組み合わさっており、自分の努力だけでは解決が難しいとされている。例えば、BMIに関しては、遺伝的な要因が約70%寄与しているという報告もある。それにもかかわらず、一般社会において、肥満の要因は自己管理能力の欠如にあるという偏見や差別(オベシティ・スティグマ)が存在し、本人の努力不足や生活習慣の改善にフォーカスされがちだ。そのようなスティグマは、医療現場や肥満症患者本人の中にも存在している。
両社は、日本における肥満や肥満症およびその治療に関する認知や理解、および肥満症のある人が抱える課題を把握することを目的に調査を実施した。調査時期は2024年11月、インターネットを通じて実施したもので、肥満症患者(BMI125以上、かつ11の健康障害のいずれかの診断あり)300人、肥満症患者の診療を行っている医師300人、20~70歳未満の肥満症ではない一般生活者1,000人から回答を得た。
患者が持つ強い自己責任意識は、一般生活者よりも大きい
「肥満は誰にそうなった責任があると思うか」という設問に対し、患者87%、医師64%、一般生活者70%が肥満は「本人の責任」(「100%本人の責任」と「本人の責任が大きい」を合算)と考えていることがわかった。このことから、患者・医師を含む社会全般において、オベシティ・スティグマ(肥満に対する偏見)が存在していることが明らかになった。また、患者の約3人に2人(63%)が肥満は「100%本人の責任」と回答し、医師6%、一般生活者23%と比較して高い結果となった。
今後取り組みたい体重管理方法、医療介入を選択する患者は3割未満
「肥満や肥満症には、個人の環境・生活習慣因子に加えて、遺伝的因子や薬剤の使用、心理的因子など複数の要因が関与する」と提示され、そのことを知っても、「自分の努力だけでは解決が難しい」ということに「同意」しない人は、肥満症患者34%、一般生活者41%だった。また、患者対象に、「肥満や肥満症は複数の複合要因で起きるという前提でも今後取り組みたいと思う体重管理の方法」について聞くと、「病院で受けた食事・栄養指導」や「病院で指導された運動」「保険診療で処方される薬」といった医療介入を選択する肥満症患者は、それぞれ3割未満にとどまることもわかった。さらに、自分の考えている肥満や肥満症の要因について、肥満症患者および一般生活者の7割近くが「理由はないが、なんとなくそう思っている」と回答した。
「肥満症は他の病気と同等またはそれ以上に治療が必要」患者78%
肥満症治療に関する質問では、他の病気と同等またはそれ以上に「治療が必要」と回答した患者が78%、医師が87%、一般生活者が69%だった。保険診療で肥満症治療が積極的に行われることについては、特に一般生活者の約半数が「好ましいと思わない」または「どちらともいえない」と回答した。
体重に関するコミュニケーション意向について尋ねたとこと、診療時、体重に関する話を「聞きたい」と患者79%、医師92%と回答。一方、両者とも半数近くが体重に関する話を「気軽にできる」と回答しなかった。気軽に話せない理由は、「(患者が)恥ずかしいから」と思っている医師が最多だったのに対し、肥満症患者は「体重管理は医師の仕事ではなく、本人の責任だから」が最多であった。
社会全体で肥満や肥満症を正しく理解することが重要
調査を監修した、琉球大学大学院医学研究科内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)の益崎裕章教授は次のようにコメントしている。「肥満症は、QOL(生活の質)の低下だけでなく、すでに患っている病気の悪化や、新たに他の健康障害を引き起こすリスクがある慢性疾患である。保険診療による治療が可能なので、適切な治療を受けることによって、すでに持っている健康障害の改善や新たな健康障害の予防が期待できる。これまでは治療の選択肢が限られていたこともあり、他の慢性疾患と同じレベルの必要な治療が肥満症に対しては必ずしも充分にはなされていない。今回の調査により、肥満に対するスティグマ(オベシティ・スティグマ)が予想以上に根強いことも明らかとなった。オベシティ・スティグマが肥満症治療の妨げとなってきた可能性も大いに考えられる。肥満症は、決して個人の責任ではない。肥満症のある人が適切なケアを受けてよりよい人生を送るためには、本人や医療関係者を含む社会全体で、肥満や肥満症を正しく理解し、オベシティ・スティグマを解消していく取り組みが重要だ」。
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・日本イーライリリー株式会社 プレスリリース