東アジアのもやもや病創始者バリアントRNF213 p.R4810K、脳梗塞・肺高血圧症とも関連
国立循環器病研究センターは1月28日、脳梗塞、肺高血圧症のリスクであるRNF213 p.R4810Kバリアントと心エコー所見との関連を明らかにした。この研究は、同研究センターの服部頼都認知症先制医療開発部特任部長・脳神経内科医長、猪原匡史脳神経内科部長、野田浩太郎脳神経内科研修生(現:東京科学大学脳神経内科)、大郷剛肺循環科特任部長、中岡良和血管生理学部部長の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of American Heart Association」にオンライン掲載されている。

RNF213 p.R4810Kは、東アジアでのもやもや病の創始者バリアントと同定され、日本における脳梗塞のみならず、肺高血圧症とも強い関連があることが知られている。肺高血圧症は、心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇する疾患。治療が奏功しないと進行性で心不全に至ることもある、予後不良の指定難病。しかし、肺高血圧症を発症していないRNF213 p.R4810Kバリアント保有者の肺循環状態について、明らかになっていない。
RNF213 p.R4810Kバリアント関連の未発症者、RVOT-ACT延長の可能性
今回の研究では、多施設共同前向き観察研究であるNational Cerebral and Cardiovascular Center(NCVC)ゲノムレジストリに登録され、RNF213 p.R4810Kバリアント解析の同意の取得が得られた患者を対象とし、同バリアントの有無で分類し、心エコー所見の比較を行った。2017年5月~2021年8月までにNCVCゲノムレジストリに登録された2,089人のうち、肺高血圧症を発症しておらず、心エコーを施行した患者は1,312人で、そのうち71人がRNF213 p.R4810Kバリアント保有者だった(平均年齢54.4歳、男性32人)。右室機能を示唆する心エコー所見の中で、右室流出路血流波形のacceleration time(RVOT-ACT)が同バリアント保有者で有意に延長していた(139.2 ms vs. 122.2 ms、p<0.001)。多変量線形回帰分析で、同バリアントが、RVOT-ACT延長の独立した因子であり(β 8.86、95%信頼区間 .57~16.15、p=0.017)、多変量ロジスティック回帰分析でも、RVOT-ACT>150msの独立した因子だった(オッズ比2.40、95%信頼区間 1.29~4.47、p=0.006)。
当該バリアント保有者、発症前から心エコーで肺高血圧症の早期発見・治療へ
肺高血圧症は肺動脈狭窄・閉塞症を主要因とするため、肺高血圧症を発症した後は、RVOT-ACTが短縮することでよく知られている。しかし、今回の研究において、肺高血圧症の兆候を示していないRNF213 p.R4810Kバリアント保有者では、反対にRVOT-ACTが延長していた。この「RVOT-ACTの延長」は、肺に病前から「もやもや血管」が増生して肺血管容積の増加を示唆している可能性が考えられる。このことから、肺高血圧症発症前に、「RVOT-ACTの延長」を認めた場合、RNF213 p.R4810Kバリアントの有無を確認するとともに、肺高血圧症の発症の有無に対して注意深く経過をみていく必要があることがわかった。同研究結果から、今後も、RNF213 p.R4810Kバリアント保有者の心エコーを発症前から縦断的に追跡し、肺高血圧症を発症する患者と発症しない患者の違いを発見し、肺高血圧症の早期発見・早期治療につなげていくことが重要と考えられる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース