ALSは進行速度にばらつきがあるが、その要因は不明だった
徳島大学は1月28日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行に関連する免疫細胞とタンパク質の特定に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学研究部臨床神経科学分野の藤田浩司講師らの研究グループと、武田薬品工業株式会社との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Neuroinflammation」に掲載されている。

ALSは運動ニューロンが徐々に障害される神経変性疾患。筋力低下が急速に進行し、最終的には呼吸不全に至ることが多く、ほとんどの患者は診断後数年以内に亡くなるが、進行速度には患者ごとに大きな違いがある。ALSの臨床試験では、進行速度が治療効果の主な評価指標とされるため、進行速度のばらつきが新しい治療法の開発を難しくしている。
近年、ALSの進行は中枢神経系や末梢血液中の免疫細胞や炎症関連タンパク質と関連することが明らかになってきた。特に制御性T細胞(Treg)の減少や機能不全が進行速度と相関することが知られている。また、その他のCD4 T細胞やCD8 T細胞などの免疫細胞も注目されているが、これらの細胞が進行速度にどのように関与しているかは十分に解明されていなかった。さらに、ALS患者の血液中の炎症関連タンパク質を調べた研究では、特定のサイトカインと進行速度との関係が不明なままだった。
そこで研究グループは今回、ALS患者と健常者の免疫細胞や炎症関連タンパク質を、シングルセルRNAシーケンスと網羅的タンパク質解析(血液中の多くのタンパク質を一度に分析する手法)を用いて包括的に解析し、進行速度に関与する新たなメカニズムを明らかにすることを目指した。
ALS患者30人/健常者10人で、免疫細胞や炎症関連タンパク質の特徴を解析
研究では、ALS患者30人と健常者10人を対象に、免疫細胞や炎症関連タンパク質の特徴を包括的に解析した。ALS患者は進行速度に基づいて「急速進行型」と「非急速進行型」に分類した。
Th17やエフェクターCD8 T細胞と関連するタンパク質の動態がALS進行速度に関与
免疫細胞を解析した結果、急速進行型ALSでは、制御性T細胞と比較してTh17の割合が増加し、ナイーブCD8 T細胞と比較してエフェクターCD8 T細胞の割合が高いことが明らかになった。
炎症関連タンパク質を解析した結果、急速進行型ALS患者では、炎症性サイトカインの一種であるインターロイキン17(IL-17)、KLRD1などの炎症関連タンパク質が増加していることが判明した。
タンパク質と細胞タイプの関連性を調べた結果、IL-17やKLRD1などが、Th17やエフェクターCD8 T細胞などの免疫細胞と相関していることがわかり、それらの免疫細胞が病態に関与している可能性が示唆された。
特定された免疫細胞やタンパク質をもとに、ALS進行に関するバイオマーカー開発目指す
本研究成果はALSの病気のメカニズムの理解を深めるものと言える。また、今回特定されたTh17、エフェクターCD8 T細胞、IL-17、KLRD1などをもとに、進行に関する血液中のバイオマーカーを開発する、と研究グループは述べている。
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・徳島大学 プレスリリース