妊娠中の喘息が生後の喘息リスクに関係するかは不明だった
九州大学は1月21日、喘息を起こした母親マウスから産まれた仔では、肺のILC2の数が増え、アレルギー応答を引き起こす機能も高まることで喘息が悪化することを発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の伊藤美菜子准教授、高尾智彬大学院生らの研究グループは、同研究所の須山幹太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。

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喘息は激しい咳や喘鳴、呼吸困難を引き起こす疾患。患者数は全世界で2億人以上にのぼり、医療や社会的な課題となっている。その原因や発症の仕組みを理解するためには、胎児期や幼少期の環境が重要であることが明らかになってきた。妊娠中の環境要因(喫煙、ストレス、母親の喘息など)が胎児や子どもの免疫機能、さらには将来の喘息リスクにどのような影響を与えるのかが注目されている。
免疫システムは、病原体や異物への防御機能を果たしており、その中でも「自然リンパ球(ILC)」が即時の免疫応答を担っている。特に、ILC2は、IL-5やIL-13といったサイトカインを産生することでアレルギーや喘息の発症において重要な役割を果たす。また、ILC2は刺激を受けると「記憶様性質」を持つという特性もあり、再び刺激を受けた際により強い免疫応答を引き起こす可能性が示されている。しかし、妊娠中の喘息が胎児期の免疫細胞に影響を与え、それが生後の喘息リスクに関係するのかは解明されていなかった。
母マウスの喘息により、胎仔の肺で好酸球・ILC2が増加
今回の研究では、母親と子どもが同じアレルゲン(抗原)に反応する必要があるのかを調べるため、母親マウスには妊娠中に卵白アルブミン(OVA)で喘息を起こし、その母親から産まれた仔にはダニ抗原(HDM)による喘息を誘導した。その結果、喘息をもつ母親から産まれた仔では、ダニ抗原により肺における好酸球やILC2の数が増加していることが明らかになった。また、気道の過敏性が高まり、肺の炎症も顕著でアレルギー性喘息が増悪することがわかった。
妊娠中の喘息が胎仔の肺の免疫細胞に与える影響を調べたところ、胎仔の肺では母親の喘息により好酸球やILC2が増加することが明らかになった。ILC2の遺伝子発現解析では、喘息をもつ母親の胎仔肺のILC2では、活性化やグルココルチコイド(ストレスホルモン)シグナルに関連する遺伝子の発現が増加していた。
妊娠中の喘息が胎仔肺の免疫環境を変化、生後も影響持続
妊娠中の喘息が、胎仔や成体の仔の肺に存在するILC2に長期的な影響を与える仕組みを調べたところ、エピジェネティックな変化を見出した。喘息をもつ母親の胎仔や成体の肺から得られたILC2では、DNAの構造体(クロマチン)の特定の領域が対照群と比べて開いて転写されやすい状態になっている部分(オープンクロマチン領域)があり、このような変化の一部は胎仔期から成体期まで共有されていることがわかった。さらに、これらの開いた領域には、ILC2の働きを制御する重要な転写因子であるGata3の転写制御に関わる領域や、グルココルチコイド受容体(GR)が結合する領域が含まれていた。これらの結果は、妊娠中の喘息が胎児の肺の免疫環境を変化させ、その影響が生後も持続し、成体のアレルギー性の炎症悪化をもたらす可能性を示している。
妊娠中の喘息によるグルココルチコイド上昇、子のアレルギー性炎症の悪化要因と示唆
最後に、妊娠中の喘息ではストレスホルモンが増加していたことから、妊娠中の母体に合成グルココルチコイド(デキサメタゾン)を投与した。その結果、仔では、ダニ抗原によるアレルギー性炎症が重症化し、肺のILC2の数と反応性が増加していた。この結果は、妊娠中の喘息によるグルココルチコイドの上昇が、子どものアレルギー性炎症を悪化させる要因となることを示唆している。
ステロイド治療、ILC2機能を高め喘息リスク増加の可能性
今回の研究は、妊娠中の母親の喘息やストレスホルモン(グルココルチコイド)が子どもの免疫細胞(ILC2)の機能や喘息リスクに長期的な影響を与える可能性を示した。子どもの喘息リスクを減らすためには妊娠中の母体の喘息のコントロールやストレス管理の重要性が明らかになった。また、グルココルチコイドはステロイドであり、ステロイド治療がILC2の機能を高め、喘息リスクを増加させる可能性があることは、臨床的にも重要な発見である。妊娠中の喘息治療や胎児への影響をより良く理解し、安全で効果的な管理方法を見つけることにも寄与することが期待される、と研究グループは述べている。
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