難治てんかんの一種「ウエスト症候群」発症、有機溶剤との関連は?
兵庫医科大学は1月21日、子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)の約10万組の親子のデータをもとに、妊娠中に仕事で使用した揮発性有機溶剤を含む物を半日以上使用した頻度とウエスト症候群発症との関連を解析した結果を発表した。この研究は、同大医学部小児科学の下村英毅臨床准教授、エコチル調査兵庫ユニットセンターの竹島泰弘センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
ウエスト症候群は、乳児期にさまざまな原因により発症する難治なてんかんの一種。主な原因は周産期の異常や先天異常だが、明らかな原因が見つからない場合もある。近年、遺伝学的検査手法の進歩により、原因が見つからなかった患者の一部で、遺伝子異常が原因であることがわかってきた。遺伝子異常は、さまざまな要因が影響するため、特定の要因を原因として断定することは困難である。動物実験等により、有機溶剤の中には人の身体で遺伝子の変化を導く可能性があると報告されている。そこで、研究グループは妊娠中の有機溶剤を含んだ用品や、そのものの使用頻度が子どものウエスト症候群の発症に関連があるかどうかを調査した。
妊娠中の油性マーカーなどの使用頻度と子の生後2歳までの発症との関連を大規模解析
今回の研究ではエコチル調査に登録され、妊娠初期から生後2歳までに得られた約10万組の親子のデータのうち、自己記入式質問票に有効な回答があった8万8,280人を対象とした。解析は、妊娠中に仕事で有機溶剤を含むと考えられる用品、あるいは有機溶剤そのもの(灯油・石油・ベンジン・ガソリン、油性マーカー、水性ペイント・インクジェットプリンタ、有機溶剤)を半日以上使用した頻度(使用していない、月に1~3回、週に1回以上)と、子どもの生後2歳までのウエスト症候群発症との関連を解析した。統計解析は、母親の職業、母親の年齢、出産時の週数、子どもの性別を共変量としてロジスティック回帰分析を用いた。また、油性マーカーの使用頻度との関連性についても解析を行った。
油性マーカー使用頻度「高」はウエスト症候群発症リスク「高」傾向
解析の結果、油性マーカーあるいは水性ペイント・インクジェットプリンタを月に1回以上(1回あたり半日以上)使用した場合、ウエスト症候群を発症するリスクが高くなることがわかった。なお、ウエスト症候群を発症した子どもの母親で水性ペイント・インクジェットプリンタのみを使用していた者はいなかった。そのため、水性ペイント・インクジェットプリンタの使用頻度とウエスト症候群の発症については解析できなかった。油性マーカーの使用頻度とウエスト症候群の発症については、使用していない、月に1~3回、週に1回以上の順にウエスト症候群の発症リスクが高くなることがわかった。
油性マーカー使用による発症への影響、今後検討の必要
なお、今回の研究にはいくつかの限界がある。1点目として本研究では有機溶剤を含むと考えられる用品あるいはそのものの「使用」を質問紙で収集しているため、物質へのばく露の影響は正確に検討できていない。2点目は、質問紙で情報を収集しているため、有機溶剤の種類、量、濃度、使用した用品以外からの影響が検討できていない。3点目は妊娠中にばく露した他の物質、出産後に子どもがばく露した物質が検討できていない。最後に、ウエスト症候群の発症に影響したのがばく露した物質なのか、他の職場環境なのかを検討することはできなかった。
今後は、油性マーカーを使用することが、ウエスト症候群の発症にどのような影響を及ぼしているのかを検討する必要があるとしている。エコチル調査からは引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待される、と研究グループは述べている。
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・兵庫医科大学 プレスリリース