サイトカイン放出症候群発症直後の頭頸部浮腫(NEC)、適切な管理法は未確立
京都大学は1月14日、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法において、サイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome;CRS)の発症直後に起こる頭頸部浮腫の合併症について、発症頻度とリスク因子を探索し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科血液内科学大学院生の中村直和氏、同大医学部附属病院の髙折晃史教授(病院長)、細胞療法科の新井康之講師(診療科長)、城友泰助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Haematology」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
CAR-T細胞療法は、再発難治性悪性リンパ腫や多発性骨髄腫の有力な治療法の一つであり、日本では2019年に承認後、実施件数が増加している。発症頻度の高いCRS等に対する合併症管理は徐々に向上してきているが、CRS発症直後に時々見られる頭頸部浮腫(Neck Edema after CAR-T cell therapy;NEC、CAR-T後頭頸部浮腫と命名)についてはあまり認知されておらず、適切な管理法が確立していない。NECを正しく理解し適切な管理を行うために、発症頻度やタイミングなど基本的な疫学調査が必要であるとともに、NEC発症を予見できるバイオマーカーの同定も待たれていた。
CAR-T細胞療法を実施した、再発難治性B細胞リンパ腫/多発性骨髄腫133例を調査
研究グループは、同大医学部附属病院血液内科で、CAR-T細胞療法としてチサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel;tisa-cel)、リソカブタゲンマラルユーセル(lisocabtagene maraleucel;liso-cel)、アキシカブタゲンシロルユーセル(axicabtagene ciiloleucel;axi-cel)、イデカブタゲンビクルユーセル(idecabtagene vicleucel)を投与された再発難治性B細胞リンパ腫および多発性骨髄腫133例を対象に疫学調査を実施した。
13.5%でNEC発症、発症1~2日前から末梢血中の好酸球比率上昇
その結果、18例(13.5%)でNECを発症し、発症中央値はCAR-T輸注3日目であり、うち16例でNEC発症の1~2日前からCRSを発症していたことがわかった。また、NECに対しては、CRSの特効薬であるトシリズマブは無効であり、ステロイドホルモンが極めて有効であることもわかった。さらに、NEC発症例と非発症例の血液検査データを比較したところ、発症例ではNEC発症の1~2日前から末梢血中の好酸球比率が上昇していることが判明した。
NEC発症メカニズムを解き明かす鍵となる研究成果
日本国内でもCAR-T細胞療法の実施経験が増加する中、比較的発症頻度の高いCRS等の合併症管理の習熟度は上がってきている。一方で、NECはCAR-T施設の専門医であっても認知度が低く、適切な治療介入が行われていない可能性がある。「研究で得られた知見が、CAR-T細胞療法におけるより適切な合併症管理の一助になるだけでなく、NEC発症メカニズムを解き明かす鍵になるものと期待している」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学 最新の研究成果を知る