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妊娠中期の尿中ニトロフェノール類濃度、早産などの関連を調査-名古屋市大ほか

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2025年01月22日 AM09:30

動物実験で性ホルモン分泌異常発生など指摘のニトロフェノール類

名古屋市立大学は1月14日、妊娠中期の母体尿中ニトロフェノール類濃度と早産、在胎不当過小、低出生体重および子どもの4歳時点の精神神経発達との関連を調べた結果を発表した。この研究は、同大エコチル調査愛知ユニットセンターの上島通浩教授、金子佳世元特任講師ら、国立環境研究所エコチル調査コアセンターの山崎新センター長、中山祥嗣次長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Research」に掲載されている。

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている世界的にも注目されている調査である。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを置いている。また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。

ニトロフェノールは、工業的に農薬、医薬品、染料等の原料として使用される他、大気中の粒子状物質、排気ガス、バイオマスの燃焼ガス、雨水等に含まれ、使用工場や内燃機関等が発生源と考えられる環境汚染物質の一つ。また、特定の有機リン系農薬が体内に取りこまれた時に分解されて尿中排泄される物質でもあるが、4-ニトロフェノールのもとになるパラチオンやメチルパラチオンは国内では使用されていない。ニトロフェノールはヒトの尿中で高い割合で検出され、米国では環境中で監視、削減が必要な物質リストに挙がっている。しかし、尿中から検出されるニトロフェノール類の濃度が、ヒトの健康と関連しているかを検討した研究は少なく、はっきりしたことはわかっていない。今回、研究グループは、動物実験において性ホルモンの分泌異常を引き起こすことや、母体から胎盤を通過して胎児に移行することが指摘されている、4-ニトロフェノールと3-メチル-4-ニトロフェノールに着目した。

エコチル調査で、妊娠中期の尿中2種ニトロフェノール類濃度と早産等との関連を大規模解析

今回の研究では、エコチル調査の対象者のうち、解析に必要なデータがあり、妊娠中の高血圧性疾患や先天性異常がなく、多胎妊娠ではない、3,650組の母児を対象とした。解析では、母親の教育歴、妊娠中のエネルギー摂取量、妊娠中の尿中コチニン濃度、調査対象地域による影響を考慮し、妊娠中期の尿中4-ニトロフェノールと3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度と、早産、在胎不当過小、低出生体重および子どもの4歳時点の精神神経発達との関連について調べた。

2種のニトロフェノールは、高濃度で男児の早産/女児の在胎不当過小の割合が高い傾向

妊娠中期の尿中の4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノールのどちらかの濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、それぞれの物質の濃度が最小濃度以下だったグループに比べて男児の早産の割合が高いことがわかった。また、2つの物質の両方とも濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、どちらの物質の濃度も最小濃度以下だったグループに比べて男児の早産の割合が高いことがわかった。そして、2つの物質の濃度を測定できないレベルまで低減することで、早産と判定された男児のうち16.3%を防げる可能性があることが示された。

妊娠中期の尿中の3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、最小濃度以下だったグループに比べて女児の在胎不当過小の割合が高いことがわかった。また、4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノールの両方の濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、どちらの物質の濃度も最小濃度以下だったグループに比べて女児の在胎不当過小の割合が高いことがわかった。そして、妊娠中期の尿中4-ニトロフェノール濃度および3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度を測定できないレベルまで低減することで、在胎不当過小と判定された女児のうち10.6%を防げる可能性があることが示された。

低出生体重・4歳時点精神神経発達との関連は見られず

なお、妊娠中の尿中4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度と低出生体重や4歳時点の精神神経発達との関連は見られなかった。

どの物質由来のニトロフェノールかは不明、今後も研究が必要

今回の研究により、妊娠中期の尿中ニトロフェノール濃度と男児の早産および女児の在胎不当過小との関連が明らかになった。また、妊娠中期の尿中ニトロフェノール濃度を低減できた場合に想定される、予防可能な早産と在胎不当過小の割合が示された。尿中ニトロフェノールは特定の有機リン系農薬の体内分解により尿中に排泄される物質であるというのが従来の定説であったが、検出率が高い4-ニトロフェノールの元となるパラチオンやメチルパラチオンは、日本では使われていない。近年では、農薬だけではなく、自動車やバイオマスの燃焼による大気汚染物質がニトロフェノールの発生源として指摘されていることもあり、この研究では、尿中で検出されたニトロフェノールがどの物質に由来するのかはわからなかった。今後は、この点を調べる研究が必要である。また、これまでに、妊娠中の尿中ニトロフェノール濃度の上昇と早産や在胎不当過小との関連を調べた大規模な疫学調査はなく、他の集団でも同様の結果が得られるか、さらなる検証が必要だ、と研究グループは述べている。

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