外反母趾進行関与の因子「第1TMT関節の過剰可動性」に着目
広島大学は1月9日、女性バレエダンサー16人を対象に、第1足根中足(tarsometatarsal:TMT)関節の動態を定量的に評価した結果を発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科スポーツリハビリテーション学の石原萌香大学院生、前田慶明准教授、浦邉幸夫教授ら、新潟医療福祉大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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外反母趾は母趾が外側に変形し、母趾の付け根に痛みを伴うため、前足部の感覚が重要となるダンサーにとって深刻な問題である。ダンサーにおいて外反母趾は代表的な足部障害の一つであり、近年では原因として不十分なターンアウトテクニックが注目されつつある。ターンアウトとは膝関節や足尖を外側に向けるようにした下肢全体の外旋を指し、バレエで常に必要とされる基本であるが、股関節の外旋可動域、筋力が不十分な場合、足部の過剰な回内(踵が内側に倒れ、内側のアーチが潰れてしまう状態)と前足部の過剰な外転強制(以下、ローリング)が生じる。
ローリングによる足部への影響は、これまで体外からの評価によって研究されてきた。しかし、ローリングの影響で足部内の関節に生じる変化を捉えるには至っておらず、外反母趾の発生リスクに関しては明確なエビデンスが不足していた。そこで、今回の研究では外反母趾の進行に関与する因子である第1TMT関節の過剰可動性に着目し、不良テクニックにより関節動態が異なるか調査した。
健常女性バレエダンサー16人対象、第1TMT関節動態を定量的に評価
同研究では、外反母趾ほか下肢と足部に既往のない健常女性バレエダンサー16人を対象とした。股関節中間位(Control条件)、股関節最大自動外旋角度までに制限することで足部での代償を除いた肢位(Functional条件)、足尖が最大限外側を向くように指示をした肢位(Forced条件)の3つの測定条件を設定。バレエの基礎動作であるプリエを課題動作として実施した。膝関節屈曲開始から完全伸展位までの解析区間にて、超音波画像診断装置と三次元動作解析システムを同期させ、第1TMT関節の関節運動(第1中足骨と内側楔状骨の垂直変位量)を測定した。
下肢の外旋テクニック不十分で、動作中の第1TMT関節の可動性増大・外反母趾リスク増示唆
その結果、Control条件、Functional条件と比較して、Forced条件では内側楔状骨の底側変位が大きく、結果として動作中の第1TMT関節の可動性の増大を示した。加えて、Forced条件にて足部の回内が大きいダンサーほど内側楔状骨の底側への変位量が大きく、不良テクニックによる第1TMT関節の可動性増大が将来的な外反母趾の発症につながる可能性が示唆された。
今回の研究は、バレエでの不良な肢位での運動が、第1TMT関節の可動性を増大させることを示した。そして、これまで明確なエビデンスが不十分であったバレエダンサーの外反母趾発症リスクに関して新たな知見を提供するものになった。ダンサーの外反母趾を含むさまざまな障害の治療の際に徒手的な評価にとどまっていた第1TMT関節の不安定性を数値化し、客観的なデータの提示を実現した。解析システムを活用して、第1TMT関節を含むリスフラン関節の関節動態およびアスリート、ダンサーの足部障害発生メカニズムの解明を目指した研究に発展していくことが期待される。適切な指導方法の確立と障害予防を講じるうえで重要な研究成果を発信できるよう、今後も研究を続けていく、と研究グループは述べている。
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・広島大学 プレスリリース