サヴァン傾向関連の認知特性とASD特性の原因とされる非典型感覚過敏との関連を検討
上智大学は1月8日、クラインフェルター症候群の男性や自分の性別に違和感のある出生時男性など、発達初期における男性ホルモン作用の低下に関連があるとされる状態が、自閉スペクトラム症(ASD)患者で一般的に観察される特性と相関がある可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大総合人間科学部心理学科の齋藤慈子准教授、総合人間科学研究科心理学専攻の多和田真太郎氏、大学改革支援・学位授与機構の坂口菊恵教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Child and Adolescent Psychiatry」にオンライン掲載されている。

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自分の性別に違和感のある出生時男性や男性ホルモンとASDとの関連について調べたこれまでの知見から、超男性脳仮説(理数工系の卓越した能力を持つ人に、男性やASD傾向を持つ人が多いことを説明する理論)とは逆の結果、つまり発達初期の男性ホルモン作用の低下とASDに相関があるという可能性が示唆されている。そこで研究グループは、一部の患者で発達初期の男性ホルモン作用の低下が観察されるクラインフェルター症候群(性分化疾患の一種でX染色体過剰で生じる一連の症候群。出生時男性の約660人に1人程度で生じ、不妊や低テストステロンを主訴とする)と、同様に発達初期における男性ホルモン作用の低下が想定される、出生時に男性と割り当てられた性的マイノリティに焦点を当て、研究を行った。
さらに、共感覚(ある感覚を刺激すると、無意識のうちに別の感覚が誘発される知覚現象)を持つ人もASD特性保持者も同様に、対照群と比べて感覚過敏/鈍麻が増加していることが知られている。また、サヴァン症候群の発症もさまざまな要因が考えられているが、複数の研究から非典型的な感覚過敏や感覚処理の亢進がサヴァン能力と相関していることが示唆されている。そこで今回の研究では、サヴァン傾向に関連する認知特性とASD特性の原因と想定される非典型な感覚過敏との関連を検討した。このような観点からクラインフェルター症候群患者におけるASD特性について検討したのは、同研究が初となる。
性的マイノリティは対照群に比べ、高いサヴァン傾向・感覚過敏/鈍麻の傾向
研究では、クラインフェルター症候群患者22人、出生時に男性に割り当てられた性的マイノリティ66人、およびクラインフェルター症候群患者と年齢と学歴をマッチングさせた対照群男性(対照第1群36人、対照第2群(再解析)583人)を対象とした。自己報告式のオンライン調査を実施し、感覚過敏/鈍麻、サヴァン傾向、共感覚、性的側面について、探索的研究を行った。性的マイノリティ群については、「性的マイノリティ」を自認する個人を参加対象として募集し、対照群男性はクラインフェルター症候群の診断を受けておらず、性的マイノリティにも属していない人とした。なお、対照第2群の調査はクラインフェルター症候群、性的マイノリティ、対照第1群の分析後に実施し、クラインフェルター症候群、性的マイノリティ、対照第2群で結果を再解析した。
その結果、クラインフェルター症候群患者群では、対照第1群よりも高い感覚過敏/鈍麻の傾向を示した。再解析からは、性的マイノリティは共感覚者の割合が対照群より高く、いずれの解析でも性的マイノリティは対照群よりも高いサヴァン傾向および感覚過敏/鈍麻の傾向が認められた。特に、性別違和感のある状態は、共感覚、サヴァン傾向、感覚過敏/鈍麻といった、ASDで観察される特性と関連していた。
性別違和、共感覚、サヴァン傾向、感覚過敏/鈍麻に共通の生理学的背景がある可能性
これらの結果は、性別違和、共感覚、サヴァン傾向、感覚過敏/鈍麻に共通する生理学的背景が存在することを示唆する結果と言える。つまり、発達初期における男性ホルモン作用の減少が脳内におけるエストラジオール作用の低下(代表的な女性ホルモンとして知られているが、男性ホルモンの代謝により生成する)と非典型的な神経発達を引き起こし、オキシトシン分泌や神経の興奮・抑制バランスを調節するγ-アミノ酪酸系の障害を通じて、感覚過敏/鈍麻といったASDで観察される非典型的な感覚特性、ひいては非典型的な自己概念(自分自身がどんな人間かについてのイメージ)に関与している可能性が考えられた。
性的マイノリティや神経発達症当事者の理解につながることに期待
今回の研究により、広く受け入れられてきた超男性脳仮説に真っ向から対立する結果が示された。基礎的な知見ではあるが、ASDの成因について異なる視座を提供する意義深い成果と言える。
「自分の性別に違和感のある出生時男性において、感覚過敏・鈍麻に加えて、共感覚やサヴァン症候群で見られる特性など、強みにもなり得る特性を所持している傾向が高いという可能性を示したことも、本研究の大きな収穫だ。本研究が性的マイノリティや神経発達症の当事者の方たちの自己理解や周囲の理解を深め、エンパワメントにつながる一助となればと思う」と研究グループは述べている。
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