医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「働きすぎの医師」を精神運動覚醒テストにより評価する新手法を確立-順大ほか

「働きすぎの医師」を精神運動覚醒テストにより評価する新手法を確立-順大ほか

読了時間:約 3分12秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年11月05日 AM09:30

長時間労働に従事する医師の睡眠時間に着目

順天堂大学は10月30日、「」について全国調査を実施し、(psychomotor vigilance test;PVT)が抑うつ・バーンアウトと有意に関連することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科公衆衛生学の和田裕雄教授、谷川武主任教授、米国ペンシルバニア大学のDavid Dinges教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Sleep Research」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本全国の医師を対象とした時間外・休日労働時間(以後、残業時間)の2019年の調査では、10%弱の医師の年間残業時間が1,860時間(月当り残業155時間)であり、過労死ライン(月あたり残業100時間)を超えている。

長時間労働は心身の健康に影響を及ぼすが、1)日常的に自己犠牲的な態度で業務に従事、2)生理学的に慢性の疲労・睡眠不足は自覚困難である、などの理由により医師本人からの疲労・睡眠に関する正確な自己申告は期待できない。後者については、2万人の職業運転者を対象として調査した先行研究で、睡眠の問題があっても主観的な眠気等が強くなるとは限らないことを明らかにしている。

覚醒度を客観的に評価する検査「PVT」、1,200人以上の医師を対象に実施

研究グループは、長時間労働に従事する医師の睡眠について客観的評価が必要と考え、その手法として、PVTに注目した。PVTは、共同研究者であるDavid Dinges教授が開発した覚醒度を客観的に評価する検査で、数字が出るとボタンを押下する、という動作を3分間あるいは10分間繰り返し、その間の反応速度から覚醒度を測定・評価する検査である。David Dinges教授らは、これまでにもNASAの宇宙飛行士あるいは米国のレジデントの覚醒度評価に活用してきた実績がある。今回の研究では、2019年度の医師に対する全国調査の機会に参加医師を募り、覚醒度の客観的評価にPVTを活用した。

研究には、1,200人を超す医師が参加し、PVTを実施した。PVTによる覚醒度の指標として反応速度(reciprocal response time)および反応遅延回数(lapse)を、抑うつおよびバーンアウト(論文中では、心理学的健康psychological healthと表現)の程度は、それぞれ、CES-D質問票(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale、抑うつ状態に関する質問票)およびMaslach Burnout Inventory(バーンアウトに関する質問票、消耗感exhaustion、非人間化depersonalization、達成感personal accomplishmentの低下のsubscoreからなる。)を用いて評価した。

睡眠6時間未満の医師はPVTの成績不良、PVTは抑うつ・バーンアウトと有意に関連

検討の結果、長時間労働の医師は、睡眠時間が有意に短く、6時間未満の睡眠である割合が増加することがわかった。また、6時間未満の睡眠では、PVTの成績が不良と判明し、PVTの成績と抑うつ状態の程度、バーンアウトの程度が関連していることもわかった。

改善の鍵は、「年間960時間を超さない程度の残業」「1日6時間の睡眠確保」

この結果より、一日あたり6時間の睡眠確保には、年間960時間を超さない程度の残業時間レベルが求められ、また、6時間/日の睡眠確保によりPVTの成績も一定のレベルが維持できると考えられた。研究グループは医師の働き方改革の先行研究において、6時間以上の睡眠確保により、残業時間が多くても、残業時間が多くない群と比較して、抑うつや職場のストレスの程度は有意には悪化していないことも明らかにしている。いずれも「」の重要なエビデンスと位置付けられている。

2024年4月から本格実施の「長時間労働医師への面接指導」について、同大では面接対象医師の覚醒度の評価を、PVTを用いて実施している。このPVT導入の効果として、長時間労働の医師の覚醒度を客観的に評価するだけでなく、PVTの成績を自ら確認することを通じて「長時間労働の医師の健康確保措置に関するマニュアル」で目指す「医師が自分自身の睡眠不足・慢性の疲労、さらには、健康状態に気付く能力の涵養」という効果も期待されている。

「調査は厚生労働省の「医師の働き方改革」と関連して実施された。このため、「長時間労働の医師の健康確保措置に関するマニュアル」においては研究成果をエビデンスとして、PVTによる覚醒度の客観的評価を推奨している。現在の改正医療法によると、年間の残業時間は最長1,860時間までとなるが、さらに残業時間を短くすることが医師の健康確保には求められる。PVTを活用した睡眠の客観的評価は、医師だけでなく、医療関係者そして、エッセンシャルワーカー、さらには、さまざまな勤務体制に従事する働く人々のSleep Health(スリープ・ヘルス)の評価にも役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 末梢性T細胞リンパ腫の新規治療標的を発見、BV抵抗性克服する可能性示唆-北大ほか
  • ラジオ体操の実践は、フレイル高齢者のバランスや持久力向上に寄与-都長寿研ほか
  • がん抑制遺伝子ARMC5に、飽和脂肪酸を減らし不飽和脂肪酸を増やす機能を発見-阪大
  • 中強度の運動が長期記憶を強化、8週間後も効果持続-北教大ほか
  • ホルモン抵抗性がん、P53の機能回復を促す新規治療戦略を発見-都長寿研ほか