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ダウン症合併の骨髄性白血病、発症関連遺伝子変異の全体像を明らかに-弘前大ほか

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2024年04月09日 AM09:10

TAMからML-DSへの進展に関わる遺伝子異常は不明

弘前大学は4月5日、ダウン症候群に発症する血液がんの大規模遺伝子解析を実施し、ダウン症候群に伴う骨髄性白血病()の新規ドライバー遺伝子を多数発見、ML-DSの発症に関わる遺伝子変異の全体像を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科地域医療学講座の伊藤悦朗特任教授(令和2年度まで同小児科教授)、小児科学講座の佐藤知彦助教、金崎里香助教、土岐力講師、照井君典教授、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授、国立がん研究センターがん進展研究分野の吉田健一分野長、筑波大学医学医療系解剖学発生学講座の高橋智教授、京都大学大学院医学研究科臨床統計学講座の田中司朗特定教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ダウン症候群は21番染色体の過剰(トリソミー)が原因で起こるヒトで最も多い染色体異常である。ダウン症は白血病発症リスクが非ダウン症に比較して10〜20倍とされ、さらにML-DSに限ると、そのリスクは400〜500倍とされている。このダウン症候群にみられるML-DSは、発症までの過程が特異であることから注目されている。まず、新生児の5〜10%に、一過性異常骨髄増殖症()と呼ばれる前白血病が発症する。TAMの多くが自然寛解するが、寛解例の約20%は生後3年以内にML-DSを発症する。

TAMやML-DSをはじめとして「がん」は「ゲノム」の異常(遺伝子変異)によっておこる病気であると考えられている。研究グループは、全てのTAMでみられるGATA1変異の他、白血病への進展に関わる遺伝子異常に着目して研究を進めてきた。以前の研究で、ML-DSへの進展に必要な付加的な遺伝子異常を同定するため、次世代シークエンサーを用いて網羅的遺伝子解析を行い、TAMにコヒーシンなどの遺伝子異常が加わりML-DSに進展することを明らかにした。この研究により、白血病進展の大まかな道筋が示されたが、解析症例数はML-DSに起こる遺伝子異常の全体像を把握するには不十分だった。また、初発のML-DSは、化学療法によく反応し、治療成績のよい疾患群である。これとは対照的に、再発例や化学療法に反応の悪い患者は、極めて予後不良の経過をたどる。しかし、どのような患者が再発するかについてはわかっていなかった。

53例のML-DSの全エクソンシーケンスデータを解析、新規含むドライバー遺伝子同定

がん細胞において生じている遺伝子異常は、症例によっても大きく異なるため、ML-DS症例における遺伝子変異のプロファイルを明らかとするためには、多数の症例を対象として、網羅的にゲノムの塩基配列を解読することが重要である。今回、全国の日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)の施設から集まった多症例の網羅的遺伝子解析を行った。最初に、研究グループは、次世代シークエンサーを用いて、39例のML-DS症例について、ゲノムのうちタンパクをコードする領域(エクソン)の全塩基配列を徹底的に解読することにより(全エクソンシーケンス)、その遺伝子変異の網羅的解析を行った。以前全エクソンシーケンスを行った14症例と合わせて53例のML-DSのデータを解析し、6つの新規ドライバー遺伝子を含む20のドライバー遺伝子を同定した。

より多くの症例で白血病関連遺伝子を解析、ML-DSでIRX1とIRF2含む新規変異を発見

この結果を受けて、143例のTAM、204例のML-DSと34例の非ダウン症児に発症した急性巨核芽球性白血病(AMKL)の検体について、全エクソンシーケンスで同定した遺伝子や白血病で高頻度に変異がみられる他の遺伝子群(計343遺伝子)を詳細に検索した。その結果、TAMではGATA1以外の遺伝子変異はきわめてまれだが、ML-DSではコヒーシン複合体、CTCF、エピゲノムの制御因子(45%)、およびRAS/チロシンキナーゼなどのシグナル伝達系分子をコードする遺伝子群に高頻度に変異が存在することを確認した。さらに、今回の研究により、計16の新規ドライバー遺伝子を同定した。中でも、IRX1、RUNX1とZBTB7Aの変異が最も高頻度だった。また、IRX1とIRF2は、これまでヒトの悪性腫瘍で変異の報告のない遺伝子だった。これらの結果は、これまでのML-DSのドライバー遺伝子の全体像を大きく変えるものだった。

野生型IRX1の発現がIRX1変異ML-DS細胞の増殖を抑制、巨核球・赤血球分化を誘導

TAMからML-DSを引き起こす仕組みを解明し、新規治療法の開発につなげるため、頻度が高い新規ドライバー遺伝子IRX1、ZBTB7AとRUNX1に焦点を絞り、機能解析を行った。ML-DSに認められたIRX1とZBTB7A変異は、ほとんどが機能喪失変異と考えられた。幸運なことに、IRX1とZBTB7Aの変異陽性ML-DS細胞株が発見されたため、その細胞株を用いて機能解析を行った。ML-DSはAMKLの一つだが、野生型IRX1の発現はIRX1変異陽性ML-DS細胞株の増殖を抑制し、巨核球・赤血球分化を誘導することがわかった。

ML-DS細胞株、MYC発現抑制するBRD4阻害薬に高い感受性

野生型ZBTB7AもML-DS細胞株の増殖を抑制するが、興味深いことにZBTB7AとIRX1遺伝子は共通してMYCシグナリング・パスウェイを抑えることで、ML-DSの腫瘍抑制因子として働いていることを見出した。ARV-825などのBRD4阻害薬はMYCのスーパーエンハンサーを抑制してMYCの発現を抑制する。実際、解析した全てのML-DS細胞株はその他のAML細胞株に比較して、ARV-825に対して高い感受性を示し、MYCが治療標的になることが示された。

ML-DSの13.7%でRUNX1部分タンデム重複、TAMからML-DSの進展に重要と示唆

一方、RUNX1遺伝子は21番染色体上のTAM/ML-DSの発症に関わる領域に存在し、造血細胞の発生を司っている。驚いたことに、ゲノム解析で、RUNX1の部分タンデム重複(RUNX1-PTD)がML-DSの13.7%に検出された。ほとんどがエクソン3から6が重複を起こす構造異常で、DNA結合ドメインであるRuntドメインが2つ重複する変異RUNX1タンパクが発現していることがわかった。白血病では多くのRUNX1融合遺伝子や変異が報告されているが、RUNX1-PTDの報告はほとんどなかった。RUNX1C-PTDはDNA結合ドメインが二つに増加しているが、転写活性化能の低下と細胞内局在の異常を認め、機能喪失変異と考えられた。正常のRUNX1遺伝子には二つのプロモーターが存在し、P1プロモーターからはRUNX1Cアイソフォーム、P2プロモーターからはRUNX1AとRUNX1Bアイソフォームが発現する。最近の研究により、ML-DSの発症には、RUNX1Cに対するRUNX1Aの過剰発現が重要であることが示された。RUNX1-PTD構造異常では、P2プロモーターが重複し、RUNX1AとRUNX1Bに加え、RUNX1A/B-PTDも発現する。一方、P1プロモーターからはRUNX1Cが発現しなくなり、RUNX1C-PTDのみが発現する。このため、RUNX1A/RUNX1Cの比率が高くなると考えられる。このことがTAMからML-DSの進展に重要な役割を果たしていることが推定された。

CDKN2Aの欠失・TP53変異が最大の予後不良因子であると判明

治療プロトコールは最も重要な予後因子とも言える。今回の研究で遺伝子解析を行なったML-DS症例には、同一の治療プロトコール(ML-DSに対する前方視的臨床研究JPLSGAML-D05とAML-D11)で治療された177例が含まれていた。この177例のML-DSの予後解析から、予後不良に関係するドライバー遺伝子(CDKN2A、TP53、ZBTB7A、JAK2)を発見した。特に、CDKN2Aの欠失とTP53変異は最大の予後不良因子であることが明らかになった。

ML-DSの発症メカニズム解明の重要な基盤として期待

今回の研究により、多数の新規ドライバー遺伝子が見つかり、ML-DSの遺伝子変異の全体像が劇的に変わった。この研究成果は、ML-DSの発症メカニズムを解明する上で、重要な基盤になると期待される。CDKN2A、TP53、ZBTB7AとJAK2は、ML-DSの予後不良と関連する初めての遺伝子である。将来の臨床試験において、リスク層別化に利用することができると考えられる。「新規ドライバー遺伝子が判明したことで、これらを標的にした新たな治療法の開発が期待できる」と、研究グループは述べている。

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