関節リウマチ病変部におけるTph細胞の挙動は未解明
京都大学は8月5日、関節リウマチの病変部に存在するperipheral helper T細胞(Tph細胞)には、幹細胞に似た性質を持つ細胞(幹細胞様Tph細胞)と活性化した細胞(エフェクターTph細胞)の2種類があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の増尾優輝氏(博士課程)、吉富啓之准教授(兼:同大高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)連携研究者)、上野英樹教授(兼:WPI-ASHBi副拠点長/主任研究者、同大免疫モニタリングセンター・センター長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Immunology」にオンライン掲載されている。

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関節リウマチは、免疫系の異常により関節に炎症が生じる自己免疫疾患の一つで、世界で最も頻度の高い自己免疫疾患である。近年は治療成績の向上がみられるものの、依然として治療効果の乏しい患者が3割ほど存在する。
関節リウマチの病態には、多種多様な免疫細胞が関与することが知られている。その中で、ヘルパーT細胞の一種である「Tph細胞」は、病的な組織に集積してB細胞での抗体産生に関わることがこれまでの研究で明らかにされている。しかし、Tph細胞が関節内のどこで、どのように維持・活性化され、炎症に関与するのかは不明だった。
そこで今回の研究では、関節リウマチ患者由来の検体を用いたマルチオミクス解析を行い、病変組織でのTph細胞の動的挙動の解明を目指した。
患者検体から性質の異なる2種類のTph細胞を発見
関節リウマチ患者の炎症滑膜および血液から免疫細胞を採取し、シングルセル解析で遺伝子発現解析を行った。その結果、Tph細胞には幹細胞様の遺伝子発現を示す「幹細胞様Tph細胞」と活性化マーカー遺伝子を発現する「エフェクターTph細胞」の2種類が存在することがわかった。
患者由来の幹細胞様Tph細胞とエフェクターTph細胞の増殖能力を調べたところ、幹細胞様Tph細胞は元の性質を保ったまま増殖するのに対し、エフェクターTph細胞はほとんど分裂しなかった。また、長期培養において、幹細胞様Tph細胞からエフェクターTph細胞への一方向性の分化が観察された。
幹細胞様Tph細胞はB細胞、エフェクターTph細胞は炎症関連細胞と共在
次に、これらの細胞が滑膜組織のどこに存在するのかを明らかにするために、空間的RNA解析を行った。空間的RNA解析では、Tph細胞だけでなくB細胞、マクロファージ、線維芽細胞など滑膜組織に存在する全ての細胞の局在と位置関係、および3次リンパ構造の分布を明らかにすることができる。
解析の結果、幹細胞様Tph細胞のほとんどは3次リンパ構造の中でB細胞と近接して存在することがわかった。一方、エフェクターTph細胞の多くは3次リンパ構造の外側で炎症性マクロファージやキラーT細胞の近くに存在していた。
幹細胞様Tph細胞によるB細胞活性化、エフェクターTph細胞への分化をモデル系で証明
最後に、3次リンパ構造に存在する各細胞の位置と機能の関係性を調べるために、幹細胞様Tph細胞とB細胞が近接する状況を再現した培養実験を行った。患者由来細胞と同様に、幹細胞様Tph細胞の増殖と、幹細胞様Tph細胞からエフェクターTph細胞への分化が確認された。さらに、幹細胞様Tph細胞は近傍のB細胞を活性化し、抗体産生を促すことが明らかになった。
幹細胞様Tph細胞が難治性関節リウマチの新たな治療標的となる可能性
今回の研究によって、Tph細胞には空間的にも機能的にも異なった2種類の細胞(幹細胞様Tph細胞とエフェクターTph細胞)が存在することが明らかになった。幹細胞様Tph細胞は3次リンパ構造でB細胞と隣り合って存在することで自己複製し、近傍のB細胞の活性化に関与していた。その過程において、一部の細胞がエフェクターTph細胞へ分化し、3次リンパ構造の外へと移動して炎症に関わるマクロファージやキラーT細胞に接近していた。幹細胞様Tph細胞は関節リウマチ滑膜でのTph細胞の維持と炎症の活性化に関わることから、新たな治療標的となる可能性がある。
「本研究によって、関節リウマチ病変部において幹細胞様Tph細胞が自己複製と分化を通じて、Tph細胞の機能全体を制御することが明らかになった。治療効果が十分でない患者では、幹細胞様Tph細胞が持続的な症状に関わっている可能性があることから、Tph細胞のさらなる役割の解明が重要だ」と、研究グループは述べている。


