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eスポーツの長時間プレー、瞳孔収縮から自覚しにくい認知疲労を検知-筑波大

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2024年04月05日 AM09:00

身体運動を伴わないeスポーツ、座り過ぎ・睡眠の悪習慣などが課題

筑波大学は4月2日、eスポーツにおいて、疲労の自覚が遅れて認知疲労と乖離することがわかり、また、瞳の大きさが認知疲労の指標となる可能性が示されたと発表した。この研究は、同大体育系の松井崇助教、体育科学学位プログラム博士後期課程の髙橋史穏氏の研究グループによるもの。研究成果は、「Computers in Human Behavior」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

運動、栄養、休養など、物理世界の人間のパフォーマンスや健康のための戦略は数多く確立されてきた。しかし、現代のように、物理世界とサイバー空間をまたぐ頭脳活動に関する戦略はわからないことが多いのが現状だ。このような世界で自らの心身を正確に感じ、制御し、パフォーマンスと健康を最適化できる新しいライフスタイルを創造する必要があると考えられる。そうした頭脳活動の代表例として、eスポーツがある。eスポーツは、ビデオゲームの対戦を意味する。体力水準等の壁を超えて、心身のウェルビーイングを高めるインクルーシブスポーツの性質も合わせ持ち、実際にeスポーツのプレーがヒトの脳機能を高めることがわかってきている。しかし、どうしてもプレーが長時間に及びがちなことから、座り過ぎ、食事と睡眠の悪習慣、身体の部分的な酷使等に伴う不調が課題となっている。また、特に若年層では、依存性に関連したインターネットゲーム障害の問題も指摘されている。

こうした過度な頭脳活動を防ぎ、パフォーマンスと健康を両立するライフスタイルの鍵となるのは、疲労感だ。疲労感は、心身の機能が低下していることを自覚する感覚であり、過労に対する主要な防御機構の一つと定義される。運動中の疲労感は、乳酸などの身体運動由来の生理因子に起因し、筋出力やスタミナと関連するため、実際の肉体疲労(機能低下)を反映する。しかし、eスポーツは身体運動を伴わず、楽しみや勝利へのモチベーションが強いため、長時間プレーしても疲労感が生じず、認知疲労を自覚しにくい可能性がある。

eスポーツ長時間プレー、脳活動間接指標「瞳孔の収縮」とともに認知疲労を引き起こすか検証

今回の研究では、eスポーツの長時間プレーが、経験の多寡によらず、疲労感の発生よりも先に、脳活動の間接指標とされる瞳孔の収縮(脳活動の低下)とともに認知疲労を引き起こすという仮説を設定した。eスポーツのタイトルは、ダイナミックな身体活動を伴わないバーチャルサッカーを用い、筑波大学の学生および秋葉原のゲームコミュニティから募集した33人(カジュアルプレーヤー14人:普段からバーチャルサッカーゲームを好んでプレーする者、ハードコアプレーヤー19人:大会で勝つために毎日ビデオゲームを長時間プレーする者)が実験に参加。このうち、ハードコアプレーヤーには2人のトッププロプレーヤーが含まれていた。

実験では、瞳孔径をアイトラッカーで常に測定しながら、合計3時間のeスポーツをプレーし、プレー前およびプレー開始から1時間毎に、視覚的評価スケール(Visual Analog Scale:VAS)で感覚(面白さと疲労感)を測定し、フランカー課題の成績から判断速度と判断精度を評価。部屋の中央および参加者の目元の照度は、常に250~300ルクスに維持した。

疲労感と判断速度・判断精度との関連、カジュアル/ハードコアプレーヤー両者で認められず

研究の結果、プレー開始の1時間後には、感覚の改善とともに、カジュアルプレーヤーでは判断速度を高めることが初めて確認された。しかし、プレー開始の2時間後と3時間後には、カジュアルプレーヤーで判断速度が遅れ、ハードコアプレーヤーでは、元々高かった判断精度が低下した。これらの結果は、プレー経験に応じて特徴的な認知疲労が表れることを明らかにした初めての知見だ。

一方、疲労感は、どちらのプレーヤーでも2時間後までは全く変化せず、3時間後に微増し、面白さは常に高く維持された。疲労感と判断速度や判断精度との関連は、どちらのプレーヤーにおいても認められなかったことから、eスポーツプレー時の認知疲労を自覚するためには、疲労感は頼りにならないことがわかった。

長時間プレーは経験の多寡によらず瞳孔径の縮小と関連、疲労感より先に認知疲労が起こる可能性

また、瞳孔径は、どちらのプレーヤーでも2時間後と3時間後に約0.1mm縮小し、その変化量が、カジュアルプレーヤーでは判断速度の低下と、ハードコアプレーヤーでは判断精度の低下と、それぞれ相関関係を示した。このことから、瞳孔の縮小が、認知疲労を精度良く検知するのに有効な神経マーカーとなることが示された。このことは、当初の仮説通り、長時間のeスポーツプレーが、経験の多寡によらず、瞳孔径の縮小と関連して、疲労感の発生よりも先に認知疲労を引き起こすことを示唆している。

今回の研究では、若年成人プレーヤーを対象として、バーチャルサッカーの長時間プレーによる認知疲労特性が明らかになった。これに基づき、研究グループは今後、認知疲労の健全な予防に向けたスポーツ・栄養戦略の構築や、ゲーミング・ITツールの開発研究に取り組むという。加えて、シューティング、格闘、レース、バーチャルスポーツなど、さまざまなジャンルのeスポーツについても、多様な参加者(年代、性別、障がいの有無など)や環境(賞品、観客、チーム、実際の大会など)を対象に同様の検証を進め、老若男女の活力と絆を育む、総合的な「eスポーツ科学」を展開していく、と研究グループは述べている。

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