医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > アトピー性皮膚炎に伴う「かゆみ」伝達に、感覚神経のSTAT3が関与-理研ほか

アトピー性皮膚炎に伴う「かゆみ」伝達に、感覚神経のSTAT3が関与-理研ほか

読了時間:約 5分35秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年12月04日 AM09:30

かゆみ誘導に重要なIL-31、受容体発現やシグナル伝達の仕組みは未解明だった

(理研)は11月29日、皮膚炎に伴うかゆみの伝達に、感覚神経における転写因子「」の活性化が重要な役割を果たしていることを発見したと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センター 組織動態研究チームの髙橋苑子研究員、落合惣太郎基礎科学特別研究員(研究当時、現・客員研究員)、岡田峰陽チームリーダーらを中心とした共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アトピー性皮膚炎などの炎症とかゆみに、免疫細胞などから分泌されるサイトカインが重要な役割を果たしていることが、近年明らかとなってきた。実際、IL-4やIL-13と呼ばれるサイトカインが作用する受容体に対する抗体や、サイトカインの受容体直下で働くJAKと呼ばれる細胞内シグナル伝達タンパク質に対する小分子阻害薬が、アトピー性皮膚炎の治療に海外や国内において広く用いられるようになった。別のサイトカインIL-31の受容体に対する抗体も、アトピー性皮膚炎などのかゆみを効果的に抑えることが示され、2022年にアトピー性皮膚炎のかゆみの治療における使用が世界に先駆けて国内で承認された。

従来、サイトカインは、免疫細胞や上皮細胞などが発現する受容体に作用して働くことが知られていた。ところが近年になり、かゆみの誘導においては、感覚神経が発現する受容体に作用している可能性が注目されていた。特にIL-31の受容体は一部の感覚神経に特徴的に強く発現していることが明らかとなり、IL-31は感覚神経に直接作用してかゆみを誘導している可能性が指摘されていた。しかし、この仮説は実証されておらず、皮膚の角化細胞にIL-31が作用することで別のかゆみ誘導物質が産生されることにより、かゆみが誘導されるという報告もあった。このため、一部の感覚神経がIL-31受容体を発現するメカニズムや、IL-31受容体とJAKの下流でどのような分子が働くことでかゆみを誘導しているのかについては明らかにされていなかった。

そこで研究グループは今回、IL-31の感覚神経と角化細胞のどちらへの作用が、かゆみを誘導しているかを明らかにし、IL-31受容体の発現メカニズムや、IL-31受容体下流のかゆみ誘導メカニズムを解明することを目指した。

IL-31が感覚神経に直接作用しかゆみを誘導、角化細胞は寄与しないことをマウスで確認

まず、IL-31の感覚神経への直接作用がかゆみを誘導しているか否かを調べるため、感覚神経においてのみIL-31受容体の遺伝子が欠損するマウスを、遺伝子改変技術を用いて作製した。同マウスの後根神経節や皮膚を解析したところ、確かに感覚神経のIL-31受容体の発現は消失していた。IL-31受容体が欠損していないコントロールマウスにIL-31を皮下投与すると強い「引っかき行動」が引き起こされるが、感覚神経のIL-31受容体が欠損したマウスでは、IL-31投与による引っかき行動の増加が全く見られなかった。つまり、感覚神経のIL-31受容体がなくなったことでIL-31によるかゆみが消失したと考えられる。一方、角化細胞においてのみIL-31受容体の発現が欠損するマウスを作製し、同様の実験を行ったところ、IL-31投与による引っかき行動はコントロールマウスと同程度引き起こされた。

以上の結果から、IL-31は感覚神経に直接作用し、かゆみを誘導していることが初めて実証された。一方、IL-31の角化細胞への作用は少なくとも皮膚炎が起きていないマウスにおいては、かゆみ誘導にほとんど寄与していないことが示唆された。

<感覚神経のIL-31受容体<<STAT3<かゆみ誘導

次に、感覚神経のIL-31受容体とJAKの下流で、どのような分子がかゆみ誘導に関わっているかを調べた。多くの場合、サイトカインシグナルにおいては、JAKによって、STATファミリーと呼ばれるタンパク質が活性化され、細胞核の中へと移行し、遺伝子発現を促す転写因子として働くことが知られている。研究グループは、感覚神経においてはSTATファミリーの中でSTAT3が多く発現していることを見出した。しかし、STAT3の活性化はIL-31によるかゆみ誘導には必須ではないことが報告されていた。その報告では、全身でSTAT3の活性化がある程度減弱するとされる遺伝子改変マウスを用いて、IL-31投与時のかゆみが減弱しないことを根拠としていた。

そこで、STAT3の活性を感覚神経においてのみ欠損させたマウスを新たに作製。同マウスにIL-31を皮下投与すると、IL-31が引き起こす引っかき行動は全く観察されなかった。つまり、感覚神経のSTAT3は、IL-31によるかゆみ誘導に必須であることが判明した。

研究グループは、感覚神経のSTAT3が、IL-31受容体下流のかゆみ誘導シグナル伝達に関わっている可能性を考えた。そこで、STAT3欠損により感覚神経のかゆみ関連分子の発現が変化していないかを調べたところ、IL-31受容体の発現が減弱しているという結果を得た。加えて、かゆみ伝達に関わるという報告のある神経ペプチドの遺伝子の発現も低下していた。それら以外のかゆみ関連分子の発現低下は、調べた限りでは認められなかった。つまり、一部の感覚神経がIL-31受容体を発現するメカニズムに、STAT3が深く関わっていることが明らかになった。

このように、遺伝子改変によって感覚神経のSTAT3をマウスの発生途中から欠損させてしまうと、IL-31受容体の発現を低下させることがわかった。しかし、感覚神経のSTAT3が、IL-31受容体下流のかゆみ誘導シグナル伝達に関わっているか否かは解析できなかった。そこで、STAT3活性化に対する小分子阻害剤を野生型マウスに投与することが、IL-31が誘導するかゆみに影響するのか調べた。

その結果、阻害剤投与により、IL-31による感覚神経のSTAT3活性化が減弱し、IL-31が惹起する引っかき行動が、消失はしないものの有意に減弱した。一方、阻害剤投与によるIL-31受容体の発現低下は確認されなかった。以上より、STAT3はIL-31受容体下流のかゆみ誘導シグナル伝達に関わっていることが示唆された。

STAT3は、IL-31が誘導する以外のかゆみにも重要な役割を果たす

研究グループは、皮膚炎が起きていないマウスにIL-31を投与したときのかゆみだけでなく、皮膚炎が起こっている状態のマウスのかゆみについても解析を行った。アトピー性皮膚炎に似た2型炎症を起こす皮膚炎モデルを、角化細胞においてのみIL-31受容体を欠損させたマウスに適用したところ、皮膚炎に伴う引っかき行動は、コントロールマウスと同程度観察され、この皮膚炎モデルにおいても、角化細胞のIL-31受容体の重要性は確認できなかった。

しかし、感覚神経においてのみIL-31受容体を欠損させたマウスに適用したところ、皮膚炎に伴う引っかき行動が減弱することが判明。この減弱は有意ではあるものの、引っかき行動はまだ残っていた。よって、この皮膚炎モデルにおけるかゆみ誘導においても、感覚神経のIL-31受容体の関与が認められたものの、感覚神経のIL-31受容体が関与しないかゆみも存在することが示唆された。一方、感覚神経においてのみSTAT3を欠損させたマウスに、この皮膚炎モデルを適用したところ、引っかき行動が強く抑制されていた。このことから、感覚神経のSTAT3は、皮膚炎においてIL-31が誘導するかゆみだけでなく、他のかゆみにも重要な役割を果たしていることが示唆された。

STAT3の小分子阻害薬開発の必要性が示唆される結果に

今回の研究により、IL-31が感覚神経に直接作用してかゆみを誘導していることが実証された。同結果から、アトピー性皮膚炎における「IL-31受容体に対する抗体療法」の有効性と安全性を高めるための戦略を、より理論的に考えられるようになると思われる。例えば、現状のような抗体の全身投与ではなく、感覚神経の細胞体が存在する神経節へ抗体を効率的に送達することができるようになれば、より少ない投与量でかゆみを抑えられる可能性がある。

また、感覚神経のSTAT3が炎症性のかゆみに重要な役割を持つことが示されたことにより、STAT3の小分子阻害薬のさらなる開発の必要性が示唆された。今回マウスに用いた小分子阻害剤は、生体内における効果の程度と持続時間に改善の余地があるが、ヒトにおいてSTAT3を特異的・持続的に阻害する効果の高い小分子阻害薬が開発されれば、サイトカイン受容体に対する抗体と比べ、より多くの症例に有効で、かつ比較的安価な治療が可能となる。

「STAT3上流のJAKに対する小分子阻害薬は多くの症例で効果があり、抗体と比べて安価な治療薬だ。一方で、免疫に大きく影響してしまうなどの副作用の懸念がある。STAT3阻害にも副作用の懸念は存在するが、JAKの下流で働く多くのシグナル伝達経路の一部のみを阻害するため、JAK阻害に比べて副作用が低減する可能性がある」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 特発性大腿骨頭壊死症、細胞老化の抑制が治療アプローチにつながる可能性-名大
  • トリプルネガティブ乳がん、MAP1Bが浸潤・転移能に関与すると判明-東京薬科大ほか
  • ピロリ除菌後の胃がん発症リスク、PCAB長期使用で高まる-東大病院ほか
  • 日本人は栄養・食事情報を「幅広いメディアから得ている」ことを明らかに-東大
  • 原因腎疾患不明の透析患者、1割に遺伝性腎疾患の潜在を発見-東京医歯大ほか