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悪性度高い子宮頸がんの原因、HPV18型の複製に関わる因子を同定-東大病院ほか

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2023年11月29日 AM09:00

子宮頸がんの原因、HPV感染成立時の初期プロモーター活性化はどのように起こるのか?

東京大学医学部附属病院は11月24日、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス()の中でも悪性度の高いがんの原因とされるHPV18型の標的細胞に注目し、18型の複製に関与する細胞内分子NPM3の同定に成功したと発表した。この研究は、同病院女性診療科・産科の田口歩届出研究員、東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻の豊原佑典大学院生、曾根献文准教授、大須賀穣教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の松永浩子次席研究員、大学院先進理工学研究科生命医科学専攻の竹山春子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では子宮頸がんワクチンの普及の遅れから若い世代の罹患者数が増加しており、ワクチンによる一次予防とともに、HPV感染後の子宮頸がんへの進行予防法や治療法の開発が重要視されている。性交渉によりHPVが腟から連続する扁平上皮と子宮内膜から連続する腺上皮の移行部Squamocolumnar junction(SCJ)に侵入し、細胞内でHPVの初期プロモーターが活性化することで感染が成立する。また、HPVには高リスク型と低リスク型があり、高リスク型の感染で子宮頸がんへ進展するリスクが高まる。高リスク型は約13種類知られており、特にHPV18型は、前がん病変で見つかりにくく、悪性度の高い腺がんや小細胞がんで見つかる頻度が高く管理が難しいHPVである。研究グループは、HPV18型の感染標的細胞を同定し、感染成立やがん化の機構を解明するため、初期プロモーターの活性化に着目した。患者から採取した検体の一部を特殊な環境下で三次元培養を行う手法で、人体臓器に模した小さな三次元培養(ヒト由来SCJオルガノイド)を作り出し、HPVプロモーターの活性を測定した。

SCJオルガノイドでHPV18型初期プロモーター活性示す細胞解析、高発現遺伝子を同定

婦人科がん手術を受けた患者から、正常と考えられる子宮頸部のSCJの一部を採取し、オルガノイド(SCJオルガノイド)培養を行った。まず、オルガノイドと正常子宮頸部SCJを対象に空間的位置情報を確認した上で、微小領域の遺伝子発現プロファイルを評価し、培養したSCJオルガノイドが子宮頸部SCJの性質を有することを確認した。次に、HPV18型の初期プロモーターに注目し、初期プロモーターの活性を担う領域(LCR:Long control region)に発光タンパク質遺伝子をつないだベクターを作製した。初期プロモーターが活性化すると発光するので、プロモーターの活性化を発光強度で測定できるシステムである。このベクターをSCJオルガノイドに導入した。

導入後、細胞を1細胞ごとに分け、シングルセルソーティングで細胞の発光強度を測定し、発光細胞と非発光細胞を分取した。ひとつひとつの細胞を個別に解析し、発光細胞と非発光細胞を比較することで、HPV18型初期プロモーターが活性化した細胞の特徴が示された。その結果、169個の遺伝子においてHPV18型初期プロモーターが活性化した細胞で有意に発現上昇していることがわかった。

細胞の未分化性に関わるNPM3が、HPV18型の複製に重要と判明

この169個の遺伝子のうち、特に重要な遺伝子を探すため、HPV18型が複製するヒト上皮由来の細胞(NIKS細胞)で候補遺伝子の発現を低下させる実験を行ったところ、ヒストンシャペロンタンパク質であるNPM3という遺伝子がHPV18型の複製に重要であることが示唆された。NPM3は未分化幹細胞で多く発現することが報告されているが、今回の研究でも、NPM3の遺伝子発現を低下させると細胞の分化能に関する遺伝子の発現が低下する傾向にあった。以上のことから、HPV18型初期プロモーターが活性化しやすい細胞がSCJの未分化な細胞であること、そしてNPM3が未分化性の維持とHPV18型の複製に関与していることが示唆された。従来、HPVがSCJの細胞の中でも特に未分化細胞に感染することで、がん化すると考えられてきたが、この研究によって、ヒトの生体に近いオルガノイドでそれが裏付けられた。

HPV18型発がんの機序解明、治療法開発につながる可能性

今回の研究では子宮頸部SCJオルガノイドでHPV18型初期プロモーター活性を測定する世界初の実験を行い、HPV感染細胞を同定した。このシステムは今後、HPV感染症研究への幅広い応用が期待できる。「NPM3がHPV18型の初期複製にどのように関わるかを明らかにすることで、HPV18型による発がんの機序解明、予防法・治療法の開発につながる知見が得られる可能性がある」と、研究グループは述べている。

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