医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新規抗がん剤の有望シーズ「Bis A」、がんの代謝特性を標的に高い活性を示す-京大ほか

新規抗がん剤の有望シーズ「Bis A」、がんの代謝特性を標的に高い活性を示す-京大ほか

読了時間:約 3分15秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年11月14日 PM12:13

がん分子標的として注目されるASNS、既存の阻害剤は細胞膜透過性の低さなど課題

京都大学は11月10日、アスパラギン合成酵素(asparagine synthetase:ASNS)を阻害する微生物代謝産物ビサボスクアールA(Bis A)を見出し、非小細胞肺がんに対する抗がん剤シーズとしての有望性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の掛谷秀昭教授、Yanjun Pan博士課程学生、理化学研究所の堂前直ユニットリーダー、近畿大学の西尾和人教授、慶應義塾大学の平野秀典特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Pharmacology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がん細胞は高い栄養要求性があり、L-グルタミン(L-Gln)やL-アスパラギン(L-Asn)などの欠乏は、肺がん、乳がん、白血病細胞、前立腺がんなどの増殖や転移を抑制する。細胞外L-Asnを低下させるL-アスパラギナーゼは急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬として承認されているが、治療に伴う細胞内ASNSの発現上昇による耐性が大きな課題になっている。ASNSは、Asnのde novo合成を担う細胞内タンパク質合成の律速酵素であり、肺がん、前立腺がん、膵がんなどで高発現しており、がん分子標的として非常に注目されている。

ASNSは561残基のアミノ酸からなり、N末側(1-216)にグルタミナーゼドメイン、C末側(217-561)にシンターゼドメインを有しており、基質となるL-アスパラギン酸(L-Asp)とATPを反応させ活性なβ-aspartyl-AMP中間体を生成すると同時に、L-Glnの加水分解によって生じたアンモニアと反応させ、四面体型遷移状態を経てL-Asnを生成する。これまでに、基質L-Aspや遷移状態を模倣した阻害剤やプラチナ製剤などがASNS阻害剤として報告されているが、低い細胞膜透過性や化学構造の多様性の少なさなどの問題を抱えている。

構築したハイスループット・スクリーニングにより、新規ASNS阻害剤「Bis A」発見

研究グループは、ASNSを標的とした抗がん剤シーズ開発を目指した。まず、ASNSを標的とした治療薬候補を取得するため、組換ヒトASNSを用いたハイスループット・スクリーニング(HTS)に適した評価系の構築を行った。続いて、in-house化合物ライブラリー(独自の天然有機化合物、合成化合物を含む)を用いてHTSを実施した結果、糸状菌スタキボトリス属RF-7260が産生するビサボラン型メロテルペノイドであるBis Aを新規ASNS阻害剤として見出した。LC-MS/MSを用いたin vitro阻害機構の解析結果により、Bis Aは、主に、ASNSのK556にコバレントに結合し、β-aspartyl-AMP中間体の生成を抑制することを明らかにした。Bis AとASNSからなる複合体のCovDockによるin silico解析の結果、ASNSのK556周辺の結合ポケットの詳細な情報の取得にも成功した。

Bis Aのヒト非小細胞肺がん細胞株に対する増殖抑制効果、L-アスパラギナーゼやmTORC1阻害剤併用で増強

Bis Aは、ヒト非小細胞肺がんA549細胞株に対して、顕著な増殖抑制効果(IC50:1.7µM)を示し、この増殖抑制効果は、Asnの添加により減弱した。また、細胞サーマルシフトアッセイ(CETSA)により、Bis Aは細胞内においてもASNSを標的とすることが強く示唆され、さらに、Bis Aは、L-アスパラギナーゼとの併用により相乗効果を示した。また、Bis Aは、酸化ストレスやアポトーシスを惹起すること、細胞遊走や上皮間葉転換(EMT)などを阻害し、がんの転移・悪性化を抑制することを明らかにした。一方、Bis A処理したA549細胞においては、RNAseqデータやWestern blotなどの詳細な解析により、負のフィードバック経路としてPI3K-AKT-mTORC1経路、GCN2-eIF2a-ATF4経路(アミノ酸応答経路)などの活性化が示唆された。そこで、A549細胞において、Bis AとmTORC1阻害剤(ラパマイシン、Torin1)を併用することで、負のフィードバック経路が抑制され、より顕著な増殖抑制効果を発揮できることを明らかにした。

Bis AとASNS複合体のin silico解析、独創性高い抗がん剤開発につながると期待

研究成果は、ASNS阻害剤を単剤処理あるいはL-アスパラギナーゼやmTORC1阻害剤と併用するがん化学療法の確立に向けた基盤研究となり、がん特有の代謝特性を標的とする新規抗がん剤開発につながる可能性がある。

また、今回の成果は天然物ケミカルバイオロジー研究とがん代謝特性研究などを組み合わせて得られたものであり、Bis Aの化学構造は、既存のASNS阻害剤とは大きく異なる新しいファーマコホアを有している。「Bis AとASNSとの複合体のin silico解析情報は、今後のBis Aを起点とした新規ASNS阻害剤の設計・創製に有用な知見をもたらし、独創性の高い新規抗がん剤の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか