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自己免疫疾患患者は2群に分類可能、大規模免疫フェノタイプ解析で判明-阪大ほか

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2023年11月01日 AM11:32

病態に個人差がある自己免疫疾患、免疫フェノタイプやゲノム情報などの統合的解析が必要

大阪大学は10月31日、11の自己免疫疾患の患者1,000人の血液を対象に、免疫フェノタイプ解析で46種類の免疫細胞を定量化し、自己免疫疾患と免疫細胞のつながりを表すネットワークを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の岡田随象教授(東京大学大学院医学系研究科遺伝統計学、理化学研究所生命医科学研究センターシステム遺伝学チームチームリーダー)、産業医科大学医学部の田中良哉教授、中山田真吾准教授、田中宏明大学院生(第1内科学講座)、東京女子医科大学医学部の針谷正祥教授(膠原病リウマチ内科)、猪狩勝則特任教授(整形外科)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

自己免疫疾患の病態や発症には、免疫反応を司る多数の種類の免疫細胞の働きが複雑に組み合わさっていることが知られている。また、同じ自己免疫疾患として診断される患者群の中においても、複数種類の異なる病態や免疫細胞の働きが混在しており、画一的な治療法を適用しても全ての患者で良好な治療成績が得られないことが課題だった。

個人の免疫細胞の働きを観察する手法として、患者から採取した血液に含まれる免疫細胞の種類や量を定量化する、免疫フェノタイプ解析がある。免疫フェノタイプ解析は疾患の活動性を迅速に反映した免疫反応の状態を知ることができ、自己免疫疾患の個別化医療の鍵として注目されている。しかし、複数の疾患の多数の患者を対象に、数十種類におよぶ免疫細胞を正確かつ迅速に測定し、かつ疾患活動度や治療反応性といった詳細な臨床情報と統合する大規模な解析が必要なことから、自己免疫疾患における免疫フェノタイプの全体像は明らかになっていなかった。

自己免疫疾患の発症には個人の遺伝的背景が関与し、GWASなどの大規模疾患ゲノム解析を通じて発症に関わる遺伝子変異が多数同定されてきた。PRSなど個人のヒトゲノム情報に基づく疾患発症予測の試みが始まっているが、遺伝的背景の個人差と、実際の疾患病態や免疫細胞の働きの個人差とのつながりは明らかになっていなかった。つまり、複数の自己免疫疾患を対象に、免疫フェノタイプと臨床情報や個人のゲノム情報を結び付け、疾患の層別化や再分類を行う大規模なオミクス解析研究が必要とされている。

免疫細胞の分類・解析を自動化し、約1,000人の患者の免疫フェノタイプ解析を実施

今回、研究グループは、産業医科大学第1内科学講座を代表とする多施設共同研究(FIRSTレジストリ、LOOPSレジストリ、FLOWスタディ)に参加された約1,000人の自己免疫疾患の患者を対象に、末梢血液中に含まれる46種類の免疫細胞の状態を調べる免疫フェノタイプ解析を実施した。免疫フェノタイプ解析に必要な免疫細胞の分類実験解析過程を自動化するアルゴリズムを構築することで、多数の患者を対象とした免疫フェノタイプ解析の実施を可能とした。、全身性強皮症、ANCA関連血管炎、特発性炎症性筋疾患、乾癬、IgG4関連疾患、混合性結合組織病、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、巨細胞性動脈炎、と11種類の主要な自己免疫疾患が網羅され、免疫フェノタイプ解析として過去最大規模の研究報告となった。

どの免疫細胞がどの自己免疫疾患の発症に関わっているのか、構成するネットワークを解明

得られた免疫フェノタイプ情報を自己免疫疾患同士もしくは免疫細胞同士で比較することで、似通った免疫フェノタイプを有する疾患群(例:全身性エリテマトーデスと混合性結合組織病、全身性強皮症とシェーグレン症候群・IgG4関連疾患、関節リウマチと乾癬・強直性脊椎炎)や、共通した免疫動態を有する免疫細胞群(例:T細胞群、B細胞群、自然免疫細胞群)の存在が明らかになった。さらに、自己免疫疾患や免疫細胞が構成するネットワークを明らかにすることに成功した。全身性エリテマトーデスでメモリー制御性T細胞が、関節リウマチでCD4陽性T細胞とTh17細胞が、乾癬でナイーブ制御性T細胞が増加しているなど、「どの免疫細胞がどの自己免疫疾患の発症に関わっているのか」、という長年の謎に答える成果と考えられる。

免疫フェノタイプにより、関節リウマチと全身性エリテマトーデスのそれぞれに近い患者群に分類

約1,000人の自己免疫疾患患者全体を免疫フェノタイプ情報により分類したところ、6つの患者群に分類された。このうち3つの患者群では関節リウマチの患者数の割合が高く、残り3つの患者群では全身性エリテマトーデスの患者数の割合が高かったことから、自己免疫疾患患者を、主に関節リウマチの免疫フェノタイプに近い患者群と、全身性エリテマトーデスの免疫フェノタイプに近い患者群の2群に大きく分類できることが判明した。関節リウマチと全身性エリテマトーデスは主要な自己免疫疾患であるが、異なる免疫病態反応を有すると以前から考えられており、それに沿った結果が得られたと解釈される。

一方で、関節リウマチ患者の中にも、全身性エリテマトーデスが多い患者群に含まれる患者(=どちらかというと全身性エリテマトーデスに近い免疫フェノタイプを有する患者)が少数存在することが判明した。免疫フェノタイプ情報と詳細な臨床情報を統合する解析を実施した結果、このような関節リウマチ患者では、特定の免疫細胞の減少(例:制御性T細胞の減少)や治療反応性の悪さ(例:生物学的製剤投与後の関節炎改善度の低さ)が認められることが明らかとなった。これは、画一的な治療を適用しても、一部の自己免疫疾患の患者ではなぜか治療反応性が低いという現象の一部を説明しうる知見と解釈される。

関節リウマチ発症を予測するPRS算出、間質性肺疾患の合併と樹状細胞の量に関連を発見

さらに研究グループは、関節リウマチに関連したGWAS結果に基づき個人のゲノム情報から疾患発症リスクを定量化するPRSを算出した。関節リウマチの患者において、免疫フェノタイプや詳細な臨床情報とPRSとの関わりを検討した。その結果、関節リウマチの発症を予測するPRSの値が高い関節リウマチ患者は、比較的低年齢であり、炎症反応や関節破壊の程度といった疾患活動度が高いことが明らかになった。一方、関節リウマチに合併する間質性肺疾患を予測するPRSの値が高い関節リウマチの患者は、血液中の樹状細胞の量が増えていることが明らかになった。これは、疾患の発症と合併症を予測するPRSが異なる免疫病態と関わっていることを示し、関節リウマチ合併間質性肺疾患の病態解明に貢献する成果と考えられる。

自己免疫疾患の病態解明や、個別化医療の社会実装につながると期待

「今回の研究を通じて同定された多彩な自己免疫疾患を特徴づける免疫フェノタイプ情報や、自己免疫疾患患者の層別化分類方法、個人のヒトゲノム情報を組み合わせた活用に関する研究が今後加速することで、いまだわかっていない点の多い自己免疫疾患のさらなる病態解明や、個人の病態に最適な医療を提供する個別化医療の社会実装につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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