医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 悪性脳腫瘍の中性子捕捉治療、少量で高効果の新規ホウ素薬剤を開発-東工大ほか

悪性脳腫瘍の中性子捕捉治療、少量で高効果の新規ホウ素薬剤を開発-東工大ほか

読了時間:約 3分24秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年07月12日 AM10:57

L-BPAより多くグリオーマ細胞へホウ素を取り込ませる薬剤の開発が望まれていた

東京工業大学は7月11日、悪性脳腫瘍に高い治療効果を有する中性子捕捉療法用新規ホウ素薬剤PBC-IPの開発に成功したと発表した。この研究は、同大科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の中村浩之教授の研究グループと、大阪医科薬科大学 医学部 脳神経外科学教室の川端信司准教授の研究グループ、 陽子線治療センターの中井啓准教授の研究グループ、および京都大学 複合原子力科学研究所の鈴木実教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Controlled Release」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

(BNCT)は、がん細胞が取り込んだホウ素-10(10B)と熱中性子の核分裂反応によって、がん細胞のみを選択的に殺傷する治療法として近年注目を集めている。特に、外科療法や通常の放射線療法で治療が困難な、悪性度の高いグリオーマに代表される難治性悪性脳腫瘍の新たな治療法としてBNCTには大きな期待が寄せられている。現在のところ、4-borono-L-phenylalanine()が、薬事承認された唯一のBNCT用ホウ素薬剤であるが、グリオーマに対して十分な腫瘍治療効果を得るには、L-BPAよりも高いグリオーマ細胞へのホウ素取り込み能を有する薬剤の開発が望まれている。

葉酸受容体αリガンドとアルブミンリガンドを持った「」を開発

これまでに研究グループは、葉酸受容体α(FRα)がグリオーマ細胞に高発現することに着目し、FRαのリガンドである葉酸の部分構造(pteroyl基)と、12個のホウ素原子を含むdodecaborateが結合したPBCsを開発している。また、血中のアルブミンと結合しやすいiodophenyl基とdodecaborateを結合させることで、血中アルブミンのenhance permeability and retention(EPR)効果を利用して、ホウ素薬剤の血中滞留性と腫瘍集積性を高めることにも成功している。

これらの背景に基づき、FRαリガンド(pteroyl基)、アルブミンリガンド(iodophenyl基)、ホウ素源(dodecaborate)が連結された「pteroyl-closo-dodecaborate-conjugated4-(p-iodophenyl)butyric acid(PBC-IP)」を新たに開発した。

PBC-IP投与のグリオーマ移植マウスに中性子照射、顕著に腫瘍増殖を抑制

ヒトおよびラット由来グリオーマ細胞へのPBC-IPの取り込み能を評価したところ、L-BPAよりも10~20倍多くのホウ素が取り込まれることがわかった。そこで、グリオーマの中でも特に悪性度の高いグリオブラストーマ細胞を移植したマウスにPBC-IPを尾静脈投与し、中性子照射を行ったところ、顕著な腫瘍増殖抑制効果が得られ、同用量のL-BPAを投与した群よりも有意に腫瘍増殖を抑制していた。

CED法により、既存の1/50倍のホウ素薬剤投与量で高い治療効果を実現

さらに、グリオーマラットモデルを用いて、convection-enhanced delivery(CED)法によってPBC-IPを脳内患部に局所投与し、中性子照射実験を行った。L-BPA投与群は、生存期間中央値が37日であったのに対し、PBC-IP投与群の生存期間の延長効果は極めて高く、180日が経過しても全体の50%が生存した。さらに、PBC-IPとL-BPAを併用した群では、180日経過後も全体の70%が生存した。長期間生存したラットの脳を組織染色し観察したところ、腫瘍細胞が残存していないことが明らかとなった。

PBC-IPは、静脈投与とCED法による局所投与のどちらにおいても、グリオーマおよびグリオブラストーマ動物モデルにおいて、優れた腫瘍治療効果を示した。特に、CED法によるPBC-IPの局所投与においては、通常のホウ素薬剤投与量の50分の1の投与量で高い治療効果が得られており、難治性悪性脳腫瘍の治療法の開発において、極めて大きなインパクトをもたらすことが期待される。

難治性悪性脳腫瘍の治療法開発で、大きなインパクトをもたらすことに期待

グリオーマの中で特に悪性度の高いグリオブラストーマは、発見からの5年生存率が10%以下と、全てのがんの中でも予後が悪い難治性がんだ。外科療法、化学療法、放射線療法はどれもグリオブラストーマに対する有効性が低く、有効な治療法はまだ確立されていない。今回の研究で開発したPBC-IPを用いたBNCTは、ヒトグリオブラストーマ皮下移植マウスモデルにおいて高い腫瘍成長抑制効果を示し、さらに、CED法を用いた脳内局所投与によって、ラットグリオーマ同所モデルの70%において腫瘍が消失するといった極めて高い治療効果を発揮した。同研究は、現行療法では困難なグリオブラストーマの治療に新たな可能性を示した点において、大きな社会的インパクトをもたらすと考えられる。

「L-BPAとは異なる細胞取り込み機構を有するPBC-IPは、L-BPAが効かないがんに対する有効なホウ素薬剤としてBNCTの適応疾患を拡大し、グリオブラストーマのみならず他の難治性がんの治療にも大きく貢献することが期待される。今後、PBC-IPの取り込み機構を詳細に解析することで、グリオーマ治療のための新たな薬剤設計が可能になると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか