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米国のMD/DO養成校出身医師、提供する医療の質は「同等」-東大

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2023年05月31日 AM11:21

MD医師とDO医師が治療したそれぞれの患者の転帰に違いがあるのかは不明

東京大学は5月30日、米国の65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、日本の医学部と同様の「西洋医学のみを教える医学校(Medical Doctor[]養成校)」を卒業した医師と「オステオパシー医学を中心に教えてきた医学校(Doctor of Osteopathic Medicine[]養成校)」を卒業した医師が治療した入院患者のアウトカムが、同等であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の宮脇敦士助教、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Internal Medicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

米国には、成り立ちの異なるMD養成校とDO養成校がある。どちらの医学校の学生でも、4年間の教育を受けた後、レジデンシーを経て医師として働くことができる。前者は伝統的な西洋医学を、後者はオステオパシー医学と呼ばれる医療アプローチを基盤にしている。オステオパシーは19世紀末に西洋医学とは異なる立場から始まった、手技療法や運動療法などを用いて、身体の自然治癒力を高めることに重点を置いた医学体系となっている。過去には大きく教育内容が異なっていたが、現在のカリキュラム基準は、いくつかの例外を除き、MD養成校とDO養成校の学位プログラムでほぼ同じだ(例えば、DO養成校ではオステオパシー手技療法と呼ばれる理学療法の授業と実習がある)。しかし、実際にそれぞれの医学校で受ける医学教育や卒業後のトレーニングには違いがあるのではないかという議論が続いており、それを背景としたレジデンシーにおけるDO医師に対する不公平な扱いも問題になっている。また、そもそもDO養成校を卒業した医師(DO医師)がMD養成校を卒業した医師(MD医師)と同様に、処方や手術ができる資格であることが一般に知られていないという問題もある。

米国ではMD医師が多数派で、全医師の90%を占める。しかし、MD養成校の学校数が横ばいの一方で、DO養成校は増加傾向にある。2022年には全医学生の4分の1がDO養成校に通っているため、将来的にDO医師がさらに増加することが見込まれる。DO医師はMD医師と比較して、地方や経済的に貧しい地域で診療を行い、プライマリーケアに従事する傾向が強く、米国における医療アクセス格差の縮小に貢献する役割を持っている。

しかし、このようにDO医師の増加が見込まれるにも関わらず、提供している医療の内容やアウトカム、医療費が、MD医師とDO医師の間で異なるか否かについては、エビデンスが限られていた。米国の医療システムにおいてDO医師が果たす重要な役割をふまえると、MD医師とDO医師が治療した患者の転帰に違いがあるのか評価することは重要と考えられる。

緊急入院した患者のみに限定するなど、バイアスを除外・補正して分析

このような背景から研究グループは、米国の大規模データ「メディケアデータ(65歳以上の高齢者を対象とした診療報酬データ)」を用いて、米国のMD医師とDO医師が治療した緊急入院患者のアウトカム(30日患者死亡率、30日再入院)・入院期間・医療費を比較した。

今回は、ホスピタリスト(入院患者のみを診る医師)が治療した医師に注目した。ホスピタリストは通常、シフト制で勤務するため、医師は患者を選ぶことができない。また、患者が医師を選ぶことができない状況を作り出すため、緊急入院した患者のみに分析を限定した。このように、医師も患者を選べず、患者も医師を選べない状況では、MD医師とDO医師への「患者の割付」が同じ病院の中では、ほぼランダムに近い状況と考えることができるため、患者の重症度の違いが結果を歪めることを防ぐことができる。

MD医師とDO医師は「Doximity」という医師のオンラインソーシャルネットワーキングサービスからのデータを用いて同定した。Doximityでは、登録者が自ら学位を登録するが、先行研究からその登録内容の妥当性が高いことが示されている。メディケアデータに記録のある医師の92%がDoximityデータにも登録されていた(米国の医師にはnationalprovideridentifierと呼ばれる番号が割り当てられており、それを用いて異なるデータベースを紐付けることが可能)。米国では米国外出身の医師も多く働いているため、米国外の医学部の卒業生は除外した。MD医師とDO医師の比較の際には、さまざまな患者の要因(年齢、性別、主傷病、併存疾患など)、医師の要因(性別、年齢、年間診療患者数)、および病院の固定効果を調整することのできる回帰モデルを使用し(病院の固定効果を調整することで、同じ病院内で治療された患者を実質的に比較している)、それらの影響を統計的に補正した。

MD/DOともに入院後30日以内の死亡率・入院日数・入院医療費などほぼ同等

この研究手法を用いて、2016~2019年の間に3,428病院の1万7,918人の医師が治療した32万9,510人の患者(平均年齢79.8歳、女性が59%)を分析したところ、入院後30日以内の調整後死亡率はMD医師で9.4%、DO医師で9.5%とほとんど変わらないことがわかった。

また、退院後30日以内の再入院率は、MD医師で15.7%、DO医師で15.6%、入院日数はMD医師で4.5日、DO医師で4.5日、入院医療費はMD医師で1,004ドル、DO医師で1,003ドルと、ほぼ同等だった。入院中の専門医へのコンサルト回数やICUの利用率や退院先(自宅や介護施設など)、画像検査や臨床検査の利用も同等であり、同じ病院で働いているMD医師とDO医師の提供している医療の「質」は、ほぼ同等であることが示唆された。

レジデントやフェローシップの研修がMD/DO医師の診療方法標準化に寄与の可能性

この結果のメカニズムとしては、医学校における教育の標準化と卒後教育におけるトレーニングの標準化の2つが考えられる。MD養成校とDO養成校は、別々の認定機関によって認定を受けているが、どちらも基礎医学と臨床実習を伴う4年間のカリキュラムを含む同様の厳しい認定基準に従っているため、医学校における教育内容にはほとんど差がない可能性が考えられる。また、研修のシステム上、MD医師とDO医師が同じレジデントプログラムに参加することが頻繁に起こっており、医学校卒業後に受けるレジデントやフェローシップの研修が、MD医師とDO医師の診療方法の標準化に寄与している可能性も考えられる。

日本や米国を含む先進各国では医学教育は標準化されてきているが、まだまだ医学校ごとに異なる点も多く残っている。しかし、医学教育の内容が、将来その医師が診る患者にどのような影響を与えるのか(または与えないのか)という点についてはわかっていないことが多いのが現状だ。今回の研究では、過去には異なる教育内容であったMD養成校とDO養成校で、今では少なくとも入院患者のアウトカムに影響を与えるような、教育内容の違いはみられない(=教育内容が適切に標準化されている)、もしくは、仮に教育内容に違いがあっても患者のアウトカムに影響するようなものではない、ということを示している。

「日本においても医学部や臨床研修における教育内容の違いは存在するため、どのような違いが患者にとって重要で、どの違いは多様性として許容されるのか、今後の研究が期待される」と、研究グループは述べている。

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