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匂いを検知する嗅神経回路、形成に重要なRNA結合タンパク質を同定-新潟大ほか

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2023年04月27日 AM11:44

神経軸索など核から離れてタンパク質を発現する「」、仕組みや役割は不明

新潟大学は4月26日、匂いの認識を担う嗅神経回路の形成にRNA結合タンパク質hnRNP A/Bが重要な役割を担うことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大脳研究所動物資源開発研究分野の福田七穂准教授、小田佳奈子助教、笹岡俊邦教授、腫瘍病態学分野の武井延之准教授、大学院医歯学総合研究科機能制御学分野の福田智行准教授、理化学研究所脳神経科学研究センターの吉原良浩チームリーダー、東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授、ニューヨーク大学アブダビ校/ストックホルム大学のPiergiorgio Percipalle博士、アメリカ国立衛生研究所のKevin Czaplinski博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの遺伝情報は、DNAから写しとったmRNAの情報をもとにタンパク質が合成され、これらタンパク質が適切な場所で働くことにより、細胞の活動へと反映される。タンパク質を細胞内に配置する方法は主に2つあり、多くのタンパク質は、転写されたmRNAから速やかに合成された後、適切な場所へと輸送される。一方、特定のタンパク質は、mRNAがあらかじめ目的の場所に運ばれた後、適切な時期に初めて合成される。後者の制御は「局所翻訳」とよばれ、神経軸索のような核から遠く離れた場所で迅速に、かつ限られた場所でタンパク質を発現することを可能にする。局所翻訳は軸索の形成や維持などに重要であることが知られているが、その仕組みや生物個体での役割については不明だった。

局所翻訳に関連のhnRNP A/B欠損マウス、成熟嗅神経細胞数が減少し匂いの検知能力低下

研究グループはこれまでに、マウスの精子細胞やグリア細胞などで局所翻訳の制御を受ける一群のmRNAに、RNA結合タンパク質hnRNP A/Bが結合することを見出し、解析を行ってきた。この過程で、hnRNP A/Bは軸索が活発に伸長する時期の嗅神経細胞で多く発現していることを発見した。そこで、hnRNP A/Bが嗅神経回路の形成過程で重要な働きを担う可能性を考え、嗅神経細胞におけるhnRNP A/Bの機能を解析した。

まず、hnRNP A/B遺伝子欠損マウスの嗅覚組織を観察すると、成熟した嗅神経細胞の数が減少し、軸索の投射様式に乱れが生じていることがわかった。また、行動解析実験において、匂いを検知して識別する能力の低下が見られた。これらのことから、hnRNP A/Bは正常な嗅神経回路を形成し、匂いを高精度に検知するうえで必要な因子であることがわかった。

hnRNP A/Bは神経回路形成に関連のmRNAに結合、軸索末端局所でタンパク質合成を促進

次に、嗅神経細胞でhnRNP A/Bが結合するmRNAを探索した結果、hnRNP A/Bは軸索投射や神経成熟に関連するmRNA群、特にPcdhaやNcam2などの神経細胞接着因子をコードするmRNA群と結合していることが明らかになった。これらの遺伝子の発現様式を解析すると、hnRNP A/B遺伝子欠損マウスでは、PcdhaとNcam2のタンパク質の発現レベルが、軸索末端で局所的に低下していた。

遺伝子配列解析から、 mRNAの3′側非翻訳領域(3′-UTR)に、RTS(RNA trafficking sequence)と呼ばれるhnRNP A/Bの認識配列が見つかった。そこで、Pcdha遺伝子の3′-UTRからRTSを含む領域を欠失させたマウスをCRISPR/Cas9を用いて作製し、解析した。その結果、-UTR欠失マウスでは、嗅神経細胞の細胞体側におけるPCDHAタンパク質の発現に変化は見られないものの、軸索末端におけるPCDHAタンパク質の発現に有意な低下が見られた。この発現様式は、hnRNP A/B欠損マウスにおけるPCDHAタンパク質の発現様式と類似する。以上から、hnRNP A/Bは認識配列RTSを介して神経回路形成に関わる因子のmRNAに結合し、軸索末端における局所的なタンパク質合成を促進することにより、嗅神経回路の形成と匂いの認識に寄与していることが示された。

神経発達障害との関連性も示唆されるhnRNP A/B、今後の解析に期待

hnRNP A/BやRTSを含むmRNA群は、嗅神経細胞以外の細胞にも発現している。また、hnRNP A/B遺伝子の変異は、神経発達障害との関連性が示唆されている。「今後、局所翻訳におけるhnRNP A/Bの作用機序や、他の細胞におけるhnRNP A/Bの役割を解析することで、神経の発達や機能に関わる遺伝子制御の理解が深まると期待される」と、研究グループは述べている。

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