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BRCA2遺伝子に日本人特有の病的バリアントを発見-東京医療センターほか

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2023年04月19日 AM10:39

がん発症リスクが不明のVUS、検出されても積極的な医学的管理はされない

東京医療センターは4月18日、日本人に特有のBRCA2遺伝子のバリアントを発見、その病的意義を機能解析実験により実証し、病原性を証明したと発表した。この研究は、同センター遺伝診療科の山澤一樹医長、乳腺外科の松井哲科長、、国立がん研究センター、国立病院機構岩国医療センター、、東京都立駒込病院らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本人の女性は、その生涯のうちに11%が乳がんを、1%が卵巣がんを発症するといわれている。一般的にはがんは遺伝する疾患ではないが、遺伝性乳がん卵巣がんは親から子へ50%の確率で遺伝する。BRCA1およびBRCA2遺伝子は、遺伝性乳がん卵巣がんの原因遺伝子として知られている。これらの遺伝子のいずれかに生まれつきの病的な変化(バリアント)を持つと、乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんなどを若年で発症する可能性が高く、定期的ながんのサーベイランス、予防的なリスク低減手術や、分子標的治療薬(特にPARP阻害薬)の投与などの積極的な医学的管理が行われる。

現在、BRCA1およびBRCA2の遺伝子検査(遺伝学的検査)は健康保険が適用され、一般診療でも広く実施されているが、この際、病的意義がわからないバリアント(Variant of Uncertain Significance:)が同定されることがある。このVUSが検出された場合は、がん発症のリスクが判断できないため、上記のような積極的な管理は一般的には行われず、時にバリアント保持者の不利益につながることがある。こうしたVUSに対して、病的意義を評価する有効な方法のひとつが、分子生物学的な実験によってバリアントの機能解析を行うことである。

BRCA2に日本人特有のバリアント発見、コンピュータで病原性を持つ確率「高」と推定

今回、研究グループは、各施設の受診患者、JOHBOCデータベース、過去の論文報告を調査し、BRCA2遺伝子のバリアントc.7847C>T(p.Ser2616Phe)を有する乳がん・卵巣がんの日本人患者7家系10名を発見した。このバリアントはいずれの家系でもVUSと解釈されており、遺伝性乳がん卵巣がんにおける積極的な医学管理は実施されていなかった。バリアント保有者のがんの発症年齢や病理組織型などの臨床的特徴は、遺伝性乳がん卵巣がんでみられる特徴と一致していた。このバリアントは日本人家系でのみ存在し、海外の一般集団データベースには登録されておらず、日本人に特有のものと考えられた。さらに、各種のコンピュータシミュレーションによる機能予測では、このバリアントは高い確率で病原性を持つことが推定された。

細胞実験による機能解析で病原性をもつことを証明

そこで研究グループは、MANO-B法およびABCDテストと呼ばれる細胞実験による機能解析を実施した。この結果、このバリアントが病原性をもつことが分子遺伝学的に証明された。この結果から、発見されたバリアントは、日本人集団に特異的に認められ、乳がんおよび卵巣がんなどの発症素因となる病原性をもつと結論づけた。

ゲノム検査の結果に基づく個別化医療の実践に貢献すると期待

今回発見したバリアントの病原性が明らかとなったため、バリアント保有者に対して、乳がん・卵巣がんに対するサーベイランスやリスク低減手術が推奨され、またPARP阻害薬の使用が考慮される。このバリアントは日本人に特有であり、日本人の祖先に偶然生じたバリアントが現在まで世代継承されていると推察されるが、VUSの判定のまま適切な医学的対応が取られていないバリアント保持者も相当数に達すると推察される。「本バリアントの病原性を広く周知することで、ゲノム検査の結果に基づき患者さん一人一人にあった治療を行う個別化医療の実践に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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