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白内障手術、術中・術後の予防的抗生物質「全身投与」は不要の可能性-岡山大ほか

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2022年12月22日 AM10:35

日本では全身投与が一般的だが世界的には一般的でなく、その予防効果は不明瞭

岡山大学は12月21日、白内障手術で感染予防として行われている術中、術後の抗生物質点滴や内服について調査した結果を発表した。この研究は、同大学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野(眼科)の松尾俊彦教授、同学術研究院医歯薬学域(医)総合内科の萩谷英大准教授、岡山県真庭市の落合病院薬局の井口真宏薬局長、森里典康薬剤師、同検査科の村﨏辰也技師長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)が効かない薬剤耐性菌が世界的に増えている。このまま推移すれば、薬剤耐性細菌による感染症で命を落とす人が増加すると予測される。2015年、(WHO)は、薬剤耐性に関する活動計画(アクションプラン)を発表。これに呼応して日本政府も2016年に薬剤耐性アクションプランを策定し、不必要な抗菌薬の使用を止め、抗菌薬の使用量を減らす目標を打ち立てた。

眼科では、白内障手術などの眼内手術を局所麻酔で多く行っている。2000年頃、白内障手術後の術後感染である眼内炎で失明したことに関する訴訟が多くあった。その判例の中で感染予防のため抗生物質の全身投与が推奨されたため、全身投与をやめにくい事情もあり、長年、白内障手術では術中の抗生物質の点滴や内服、術後何日かの抗生物質の内服が行われてきた。一方、世界的に見ると、白内障手術で感染予防として抗生物質の全身投与(点滴、内服)を行うことは一般的ではない。抗生物質の全身投与が術後感染予防にどの程度役立っているのかも、わかっていない。

同一施設・同一術者が実施の白内障手術、連続症例2,149件を後ろ向きに調査

白内障手術は日本で年間約90万件行われている手術件数が最大の手術だ。白内障手術の術後創部感染(眼内炎)予防の基本として抗菌薬点眼が術前3日前から術後約2週投与されている。これに加えて、白内障手術の術中術後に全身投与の予防的抗菌薬として点滴や内服が使われてきた。近年、抗菌薬の適正使用の観点から全身投与の抗菌薬を中止する施設が増えてきた。

そこで今回の研究では、同一施設(落合病院)で同一術者(松尾俊彦)が行った白内障手術の連続症例を後ろ向きに調査。古い順に「術中抗菌薬の点滴投与及び術後2日間の抗菌薬内服を行っていた期間」「術日の術前内服と術後2日間の抗菌薬内服を行っていた期間」「術日の術前内服と術後2日間、別の抗菌薬内服を行っていた期間」「術日のみ術前に抗菌薬内服を行っていた期間」「抗菌薬の全身投与を行わなくなった期間」の5つの時期において、術後感染が実際に一切なかったことを示すことを目的とした。

2016年4月~2022年10月に落合病院で行った2,149件の白内障手術の連続症例の診療録を調査し、上述5期間の患者背景として年齢、性別、術前結膜嚢培養結果の情報を抽出した。

5期間で術後感染なし、患者背景や術前結膜嚢培養結果に差は見られず

研究の結果、第1期(術中抗菌薬点滴と術後内服)白内障手術649件、第2期(術当日内服と術後内服)541件、第3期(別の種類の術当日内服と術後内服)103件、第4期(術当日内服のみ)545件、第5期(内服なし)311件、どの期間でも術後感染はなかった。各期間で患者背景や術前結膜嚢培養結果に差は見られなかった。

この結果より、研究グループは「眼局所での感染対策を標準どおり行っていれば、術中、術後の抗菌薬の全身投与は必要ないと考える」としている。

眼局所の標準的感染予防実施で、術中・後の抗生物質全身投与は必要ない可能性

白内障手術では、手術3日前から抗生物質の点眼を感染予防として行い、術後も2週間程度、点眼する。手術中は、眼の表面を消毒液イソジンの希釈液で頻回に洗い流しながら、手術を行っている。ヨード・アレルギーの者ではヨードを含むイソジンは使えないため、代わりにクロルヘキシジン希釈液で洗い流している。このような眼局所の標準的な感染予防を行っている場合、術中、術後の抗生物質の全身投与は必要ないと言えるという。

感染予防としての抗生物質の全身投与で、蕁麻疹などアレルギー反応を起こす場合もあり、また、下痢など胃腸症状を起こす場合もある。白内障手術で感染予防に必要ないのであれば、抗生物質の全身投与はしない方が得ということになる、と研究グループは述べている。

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