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SGLT1阻害剤、腎不全マウスへ投与で血中フェニル硫酸低下・腎機能改善-東北大

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2022年02月01日 AM10:45

腎臓病や糖尿病、腸内細菌叢変化でフェニル硫酸などの毒素が蓄積

東北大学は1月28日、SGLT1阻害剤SGL5213を腎不全マウスに投与すると、血中フェニル硫酸濃度が低下し、腎機能が改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大東大学院医学系研究科および同大学院医工学研究科の阿部高明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Physiological Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本国内の透析患者のうち、糖尿病性腎臓病は発症原因となる最多の疾患であり、全体の約4割を占める。糖尿病性腎臓病による透析導入患者数の抑制のためには、糖尿病患者の中から、糖尿病性腎臓病を発症し、さらに末期腎不全に進展するリスクが高い患者を、早期に見極めて積極的に治療することが重要だ。

研究グループは、先行研究により、腸内細菌が産生に関わるフェニル硫酸が糖尿病性腎臓病の原因物質の1つであること、糖尿病患者を対象にしたヒトの臨床研究の結果からフェニル硫酸は糖尿病性腎臓病増悪の予測因子であること、フェニル硫酸産生を抑えるとアルブミン尿と腎機能が改善することから、フェニル硫酸を低下させることが糖尿病性腎臓病の新たな治療法開発のターゲットとなり得ることを報告している。

また、腎臓病や糖尿病では、腸内細菌叢の変化が起こりフェニル硫酸などの毒素が蓄積することが知られており、その是正が新しい糖尿病性腎症の治療法となりうることが示されていた。腸内では、いわゆる善玉菌の栄養源となる食物繊維やグルコースが増えると、善玉菌の働きが強化され腎不全が改善することが、研究グループによるこれまでの動物実験で明らかにされている。一方で、糖尿病性腎臓病での効果は確認されていなかった。

腸管からのグルコースの吸収は、輸送体SGLT1が担っている。従って、小腸上皮でのグルコース吸収を担うSGLT1の阻害には、グルコースの吸収を遅らせることで、血糖降下作用と腸内細菌由来の尿毒素の血中濃度の減少効果があることが考えられた。

肥満などで増加のファーミキューテス/バクテロイデス菌比率、SGL5213投与で低下

今回、研究グループは、SGLT1阻害剤の一つSGL5213を腎不全マウスに経口投与することにより、腎不全時に上昇する腸内細菌由来の尿毒素であるフェニル硫酸と動脈硬化の原因物質であるトリメチルアミン-N-オキシドの血中濃度が低下し、さらに腎機能(BUN、クレアチニン)が改善することを明らかにした。

また、腸内細菌叢の解析からは、肥満などで増加するファーミキューテス菌とバクテロイデス菌の比率(F/B比)が腎不全でも増加。一方、SGL5213投与により、低下することが明らかになった。

フェニル硫酸は、その100%が食事中のアミノ酸(チロシン)から腸内細菌によって産生される代謝物で、産生酵素は腸内細菌のみが保有している。近年、糖尿病性腎症と診断された2型糖尿病患者と健常者について、糞便のメタゲノム解析によって腸内細菌叢を比較した報告がある。Prevotella属などに明確な差異があることが報告されており、腸内細菌叢の乱れが糖尿病に関与すると考えられる。

、チロシンに着目の栄養指導とSGLT1阻害で、腎不全への進展抑制の可能性

フェニル硫酸は食事中のチロシンが、腸内細菌によって変換されて産生される。従って、糖尿病患者は、食事中の肉やチーズに含まれるチロシンを減らすことにより、フェニル硫酸の産生を抑制することが可能と考えられる。しかし、チロシンのみを料理や加工により食事から除くことは、非常に困難であり現実的ではない。

従って、糖尿病性腎臓病患者に対しては、主にチロシンに着目した栄養指導とともに、SGL5213のような腸管でのSGLT1阻害を行うことで、糖尿病性腎症から腎不全への進展が抑えられる可能性が示唆される、と研究グループは述べている。

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