認知症における「違和感~診断」と「診断~介護」が長くなることによる影響は不明だった
東京都健康長寿医療センターは9月4日、認知症における「空白の期間Ⅰ」と「空白の期間Ⅱ」を研究した結果を発表した。この研究は、同センター研究所の岡村毅氏らの研究グループと、高知県立大学の矢吹知之氏らの共同研究によるもの。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
認知症の違和感を覚えてから診断を受けるまでの期間を「空白の期間Ⅰ」、診断を受けてから介護保険サービスを利用するまでの期間を「空白の期間Ⅱ」ということがある。この期間が長ければ悪いと決まっているわけではないが、同期間は外部からの支援が届かず、本人が孤立孤独に苦しむリスクが大きいため、近年非常に注目されている概念だ。
そこで研究グループは今回、空白の期間が時代とともに短くなっているかを比較するため、平成から令和になった時に認知症疾患医療センターで診断後等支援事業が事業化されたことから、その前後で比較した。そして、空白の期間ⅠとⅡが長くなる事例(75パーセンタイルより長い事例)の特徴を明らかにすることを目的とした。
「違和感~診断」は8.3か月から13.6か月に変化したが、統計学的な有意差なし
研究では、全国の認知症疾患医療センター、東北地方の認知症サポート医のうち、協力の意向を示した105施設に対して10部ずつ調査票を郵送。それを現在通院中の患者家族に配布して患者家族に記載し返送してもらった。
調査票では「認知症かもしれないと思いだした時期(A)」「病院で認知症の診断を受けた時期(B)」「介護保険サービスを利用し始めた時期(C)」を聞き、AB間を空白の期間Ⅰ、BC間を空白の期間Ⅱとした。
回収された216票の調査票を分析した結果、空白の期間Ⅰは8.3か月から13.6か月に変化したが、統計学的な有意差はなかった(t=-1.432, p=0.154)。
「診断~介護」は27.1か月から5.9か月に、統計学的にも有意に短くなっていると判明
空白の期間Ⅱは27.1か月から5.9か月に統計学的にも有意に短くなっていた(t=3.103, p<0.001)。介護離職・転職は有意に減少し(p=0.009)、診断時の就労に関する情報提供は増える傾向があった(p=0.183)。
「違和感~診断」が長いのは「介護者が男性・介護を理由に退職・夫婦の介護」など
また、空白の期間Ⅰ(気づき~診断)の平均値は13.5か月だった。25パーセンタイル、50パーセンタイル、75パーセンタイルはそれぞれ、1.0か月、7.0か月、16.0か月であった。16か月以上のものはそうでないものに比べて、「介護者が男性」「症状に気が付いたとき介護者が50歳未満だった」「介護を理由に退職または転職したことがある」「本人が受診をためらう」「夫婦間の介護」という特徴があった。
「診断~介護」が長いのは「当事者が男性・介護者が高学歴・夫婦間の介護」など
空白の期間Ⅱ(診断~介護)の平均値は16.9か月だった。25パーセンタイル、50パーセンタイル、75パーセンタイルはそれぞれ1.0か月、7.0か月、24.0か月であった。24か月以上のものは、そうでないものに比べて「症状に気が付いたときに介護者が50歳未満だった」「介護者が高学歴」「本人が男性」「診断時の本人の年齢が65歳未満」「夫婦間の介護」「同居、および介護者が診断時に安心した」という特徴があった。
引き続き「空白の期間」の絶望や孤立解消法の研究を行う予定
認知症の団体である日本認知症ワーキンググループの代表理事は、2014年のG8認知症サミット日本後継イベントにおいて講演し、「認知症の診断の後、常に緊張して頑張れば日常生活はできるが、周囲にはその苦労がわかりにくい。一人で苦しみ、もう続けられなくなり、人生が破綻して初めて介護保険のサービスの対象になる。この期間のことを空白の期間という」と、述べている。
同研究により、空白の期間の長さが短くなっていることが示された。さらに、長い間診断や介護に出会わない事例の特徴も明らかになった。地域包括支援センターや医療機関が、このような特徴を持つ事例に出会った場合に「診断になかなか至らない」「介護開始が遅くなる」といった可能性があることを認識したうえで接することは有意義と考えられる。
注意しなければならないのは、当事者が空白の期間を問題にしたのは「空白」、つまり絶望的な状況にあることを指しており、早く診断を得たい、早く介護保険サービスを受けたいといった「長さ」ではないということである。しかし、絶望や孤独を調べることは難しく定量的にも捉えにくいため、研究グループは「長さ」という非常に単純な要素に注目して調査したという。
「早く診断されれば、早く介護保険が使えれば、絶望や孤独が解消するわけではないが、全く意味がないことはなく、社会が徐々に認知症の人に対する認識を変えてきているのだという証左になると思う。これは勇気ある当事者が声を挙げ、JDWGという団体を立ち上げたことによる。なお今後は、空白の期間の絶望や孤立が本当に解消されていたのか、それを解消するにはどうすればよいのかという研究をしていく」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース


