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細胞内リソソームの輸送が、放射線治療に耐えたがん細胞の浸潤能促進に関与-北大ほか

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2020年10月29日 PM12:00

放射線照射後にがん細胞の浸潤能を亢進するメカニズムは?

北海道大学は10月28日、放射線治療に耐えて生き延びたがん細胞が、リソソームの輸送機能を用いて浸潤能を促進することと、その調節に関与する新たな分子メカニズムを明らかにしたと発表した。これは同大大学院医学研究院医理工学グローバルセンターの呉秉修研究員、小野寺康仁講師、南ジンミン講師(同大学院医理工学院分子・細胞動態計測分野担当)らと、米スタンフォード大学Quynh-Thu Le教授、Amato Giaccia教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

がん細胞の浸潤は、転移の引き金となるため、がん患者の予後を決定する要因の一つと考えられている。放射線などの治療後、細胞死を回避して生き延びたがん細胞が、何らかの仕組みで浸潤能を強化する場合があり、そのメカニズムの解明は予後の改善に必要不可欠だ。研究グループは、がん細胞内でリソソームが輸送機構によって細胞膜へと移動し、内容物が放出されることに着目し、放射線照射後に浸潤能を亢進するメカニズムを解析した。

Arl8b活性によりリソソームのエキソサイトーシスが促進され、浸潤能と細胞外マトリックス分解能を亢進

研究では乳がん細胞株を用い、タンパク質レベルの発現解析、蛍光色素によるリソソームのラベルおよび分布の顕微鏡観察、蛍光物質を用いたリソソームのエキソサイトーシスの定量、細胞の免疫染色と共焦点レーザー顕微鏡による細胞内分子の観察、タンパク質の結合実験、腫瘍移植およびin vivoイメージング等を実施。放射線照射後の浸潤能亢進におけるリソソームのエキソサイトーシスの関与とそのメカニズムを検証した。

その結果、放射線照射後に生き残ったがん細胞は、リソソームの輸送調節に関与するタンパク質「」の活性化が進むことにより、リソソームのエキソサイトーシスが促進され、浸潤能と細胞外マトリックス分解能を亢進することがわかった。また、リソソームにおけるArl8bの蓄積とそのエフェクター分子であるSKIPとの結合が増加することが確認された。これを踏まえ、Arlb8の発現を抑制したところ、放射線照射したがん細胞におけるリソソームのエキソサイトーシスと浸潤能、細胞外マトリックス分解能の亢進が阻害された。

リソソームの細胞内輸送を制御するBORC-Arl8b経路が関与

さらに、乳がん患者の遺伝子発現プロファイルを解析した結果、Arl8bを活性化するBORC複合体とArl8bのそれぞれの遺伝子の共発現が、乳がん患者の予後不良と相関することが判明した。そこで、BORC複合体の分子であるBLOS2またはMyrlysinの発現を抑制させたところ、Arl8bとSKIPの結合が減少し、それに伴い、放射線照射後のリソソームのエキソサイトーシスと浸潤能が抑制された。併せて、放射線照射後のBLOS2とMyrlysin遺伝子の発現調節は、DNA損傷応答分子であるATMによって活性化される転写因子Sp1によって行われることも確認された。

放射線後に生き残ったがん細胞を移植したマウスモデルでは、Arl8bの発現抑制によって、腫瘍増殖と遠隔転移の両方が抑制された。以上の研究結果から、Arl8bと関連分子を介したリソソームの輸送は、放射線治療後に生き残ったがん細胞の浸潤能を促進することが明らかとなった。

これまでの放射線生物学研究においては、がん細胞のDNA二重鎖切断や細胞死の解析が中心的であり、リソソームなど細胞内小器官の機能や輸送への影響についてはあまり注目されていなかった。「今回の研究で、放射線によるリソソームの輸送過程への影響と、それによるがん細胞の浸潤能制御が明らかとなり、放射線生物学研究の新たな領域を切り開く契機となる可能性がある。また、リソソームの輸送と放射線照射後のがん細胞の浸潤能促進とを連携する分子経路をより詳細に研究することにより、治療後の悪性化を抑えるためのさらなる知見につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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