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臨床試験中の白血病治療薬ORY-1001、統合失調症にも有効な可能性-筑波大

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2019年10月15日 AM11:15

クロマチン制御の異常による統合失調症発症の新メカニズムを発見

筑波大学は10月10日、クロマチン制御の異常による新たな統合失調症発症のメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大プレシジョン・メディスン開発研究センターの向井淳教授らのグループが、米コロンビア大学のJoseph Gogos教授らとの共同で行ったもの。研究成果は「Neuron」に掲載されている。


画像はリリースより

統合失調症は、陽性症状(妄想、幻覚や無秩序な思考)、陰性症状(社会的引きこもりや無気力)および、認知機能障害(記憶力・注意力・情報処理能力などの機能低下)によって定義される深刻な精神神経疾患。従来の抗精神病薬は陽性症状には有効だが、陰性症状や認知機能障害は長期の治療にも耐性があるため、患者の社会生活および社会復帰を妨げる。認知機能障害に対する薬剤の開発は、統一病態生理の不在と複雑な遺伝学的構造により依然として困難である。

抗がん剤ORY-1001が、マウスの作業記憶障害を完全に回復

研究グループは2014年に、統合失調症の高い発症リスクを持つヒストンメチル化酵素SETD1Aの機能喪失変異を発見した。今回、SETD1Aをノックアウト(KO)したマウスを作製し、その行動解析から統合失調症患者と共通する認知機能障害のひとつである、作業記憶の障害を持つことを明らかにした。作業記憶とは、例えば新しい電話番号を短い時間、頭に思い浮かべて電話をかける時のような、その場で情報を保持および、思い出すために使用される基本的な脳のプロセスのこと。作業記憶障害が起こると、推論や認識、意思決定等に深刻な影響を与え、日常生活に支障をきたす。

作業記憶障害に対する治療効果のある化合物を探索した結果、現在白血病治療薬として臨床試験中の抗がん剤ORY-1001が、KOマウスの作業記憶障害を完全に回復させることを発見した。すなわち、WT(正常)マウスでは、刺激によりSETD1Aがヒストン3のリジン4残基をメチル化し、転写因子などを介して、プロモーターとエンハンサーがコンプレックスを作り、転写が開始されるため、マウスは前回のチーズの場所を覚えている。これに対し、ヘテロ(+/-:遺伝子のコピー数が半分)のマウスでは、SETD1Aの発現量は半分になるため相対的に脱メチル化酵素LSD1の酵素活性が強くなり、メチル基をリジン4残基から奪う。するとプロモーターとエンハンサーのスイッチが入らず、転写が活性化しない。ニューロンの軸索分岐は少なく、マウスは前回のチーズの場所を思い出せなくなってしまう。しかし、このマウスにORY-1001を投与するとLSD1の酵素活性が失活し、相対的にSETD1Aの酵素活性が強くなり、転写活性が活性化される。軸索分岐数も正常に戻り、マウスは前回のチーズの場所を覚えているという仕組みだ。これにより、治療の難しい統合失調症の認知機能障害の治療薬開発への道が開かれたことになる。現在、研究グループは、統合失調症患者の治療に転用できるかどうかを検討中。

また、研究グループは、次世代シーケンス技術を駆使して、SETD1Aがゲノムの非翻訳制御領域(エンハンサー)に結合し、ヒストン修飾・クロマチン再構成を通して特定の遺伝子発現を制御することを示し、SETD1A結合エンハンサーが多くの統合失調症リスク遺伝子と共通することを見出した。SETD1Aの機能喪失変異を持つ人は統合失調症患者0.1%以下とごく僅かだが、同様のリスク遺伝子の発現異常を多くの統合失調症患者が持つ可能性があり、SETD1Aに固有の治療法は、統合失調症全体に対して広範な治療効果を与える可能性があると述べている。

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