介護療養病床は、介護保険が適応される療養病床。長期にわたって漫然と薬が使用されている患者が少なくないが、薬剤師は十分に関与できていないのが現状だ。薬剤管理指導業務の報酬は介護保険で算定できるが、病棟薬剤業務実施加算は算定できないことに加え、マンパワー不足もあって、介護療養病棟に薬剤師が常駐している病院は少ないと見られる。
同院は、一般病棟168床(地域包括ケア病棟44床)、介護療養病棟57床を有するケアミックス病院。一般病棟で薬剤師の常駐が始まったことを受け、介護療養病棟でも薬剤師の常駐を求める声が院内で高まり、17年6月から常駐が始まった。
常駐前、薬剤師は同病棟の入院患者に対して、調剤時に処方箋を見て判断できる範囲での疑義照会を行うだけだった。常駐後、薬剤師はベッドサイドに足を運んだりして、患者の服用薬、服薬期間、服薬理由などを詳しく把握。「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン」を参考に不必要な薬剤を評価し、服用薬の削除や減量などを主治医に提案するようになった。
17年6月から18年3月まで同病棟で薬剤師が介入した患者58人を対象に、その効果を調べたところ、患者1人当たりの投与薬剤数は介入前の平均7.2剤から、介入後は平均5.1剤へと2.1剤減少した。合計年間薬剤費も、介入前の約684万円から介入後は約413万円へと約4割減った。
処方変更件数は合計131件。119件(90.8%)は削除、12件(9.2%)は減量だった。薬効別では、消化性潰瘍治療薬の削減が最も多く、鎮咳去痰薬、抗菌薬が続いた。処方変更の提案理由は「症状改善」74件(56.5%)、「処方意図不明」23件(17.6%)、「副作用」17件(13.0%)、「効果不十分」5件(3.8%)などだった。
副作用事例17件の内訳は「センノシドや酸化マグネシウムによる下痢」6件、「ジアゼパムやプロクロルペラジンによる傾眠」2件、「アムロジピン、エナラプリルによる血圧低下」2件、「ジスチグミンによるコリンエステラーゼ低下」1件、「アムロジピンによる房室ブロック」1件など。薬剤師が患者モニタリングを実施したり、医師に検査を依頼したりして副作用を発見した。
同院薬剤部の矢倉尚幸氏は「減薬によって薬物有害事象発生のリスクを減らすことができた。介護病棟への薬剤師常駐は、医療経済面や薬物治療の安全性の面でも有用」と語る。同病棟の薬剤費は包括払いのため、減薬は病院経営にも貢献できるという。
全国的に今後、介護療養病棟は介護医療院への転換が進む見通しだ。今回の結果は、介護医療院においても薬剤師を常駐させることの効果を示すエビデンスの一つになると見られる。