■オプトアウトで実施可能
来春施行予定の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の改正は、現行の内容をほぼ踏襲し、大幅には変更しないという方向でまとまった。今年9月に発表された同倫理指針の中間取りまとめ案は、個人情報保護法の改正を背景に、後ろ向き観察研究でも患者の同意取得を必要とするなど厳格な対応を求める内容になっていた。これでは臨床研究の実施やレジストリ構築などに大きな影響が生じるとして、医学系学会などが再考を強く要望。その意見が受け入れられた形でほぼ決着した。
来春に全面施行予定の改正個人情報保護法では要配慮個人情報が新設され、そこに病歴が含まれるようになる。今までは氏名や生年月日の情報を除いて匿名化すれば、個人情報ではないと見なして取り扱うことができたが、氏名や生年月日を除いて匿名化した情報であっても、病歴が含まれていれば個人情報に準じた慎重な取り扱いを求めている。
このような個人情報保護法の改正を受けてこれまで文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省合同の会議で同倫理指針の見直し作業が進められてきた。中間取りまとめ案は厳格な対応を求める内容だったが、個人情報保護法の適用除外範囲を幅広く捉えることによって、今月上旬に発表された最終改正案は現行にほぼ近い内容に軌道修正された。
現行の同倫理指針では、既存の情報を用いた後ろ向きの臨床研究は、患者から直接同意を得なくてもオプトアウトで実施できる。つまり、病院内に掲示しておくなど、個人データの利用や第三者提供について本人が認識し拒否できる機会を保証することによって、それに反対しない限り同意したものと見なすことができる。このオプトアウトによる臨床研究は、今後も引き続き実施できることになった。
中間取りまとめ案では、基本的にオプトイン、つまり個人情報や病歴の利用や第三者提供は、本人から直接同意を得なければ行ってはいけないとされていた。それによって、▽既存の情報を用いた後ろ向き臨床研究を実施しづらくなる▽多施設共同の臨床研究として特定疾患の患者情報を集積して構築しているレジストリのデータのうち、同意を得ていない情報は削除しなければならない――などが問題視されていたが、その懸念は払拭された。
個人情報を保護するのは当然だが、それを優先するあまり、臨床研究を実施しづらくなると医学の発展は停滞し、結果的に患者の不利益になり得る。
そんな事態に陥ることを避けられたと医学系研究者らは胸をなで下ろしている状況だ。