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東大ら 腸管出血性大腸菌感染から併発する脳症の臨床症状と新治療法を明らかに

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2014年01月31日 PM07:00

東京大グループら、2011年大腸菌O−111食中毒事例から研究

O−157やO−111といた腸管出血性大腸菌の感染者は、大腸炎を発症するとされる。そしてその患者の一部(数%~20%)は重症化して溶血性尿毒症症候群を、さらにその一部(数%)は最重症の合併症となる脳症を併発することが知られている。溶血性尿毒症症候群に対しては、透析などの集中治療が有効であり、多くのケースで救命が可能となっているが、一方で脳症には有効な治療が乏しく、感染した重症患者における多くの死因となってきた。

こうした背景から、課題となっている脳症の治療法を開発するため、東京大学大学院医学系研究科の水口雅教授、亀田メディカルセンター小児科の高梨潤一博士、富山大学医学部附属病院小児科の種市尋宙博士らが、2011年4~5月に日本国内で発生した焼肉チェーン店で生肉を食べO−111食中毒を発症した事例を分析した。その結果、今回、腸管出血性大腸菌O−111による脳症の臨床症状の特徴と、その効果的な新治療法を見出すことに成功したという。

この研究成果は、東京大学より1月20日に発表され、「Neurology」オンライン版に1月17日付で掲載されている。

(この画像はイメージです)

ステロイド治療が脳症への有効な治療法となる可能性を示唆

富山県を中心に患者が多発したこの2011年の事例では、86名の患者が大腸炎を発症、うち34名が溶血性尿毒症症候群、うち21名が脳症を併発したという。死亡は5名で、いずれも脳症が死因だった。

同研究グループではまず、厚生労働科学研究(特別研究)O−111食中毒研究班や国立感染症研究所感染症情報センターと連携し、この事例における患者の臨床データを集積、解析した。その結果、この事例では溶血性尿毒症症候群や脳症を合併する重症患者の割合が、それぞれ40%、24%と過去の事例に比べ著しく高いものであったことがわかった。また死亡した5名は、大腸炎から脳症発症までの時間が短く、脳浮腫が急激に進行して死にいたっていたという。

そして、死亡した患者のなかにステロイド治療を受けた例はなく、一方、脳症に感染した患者で生存した16名中では、15名が後遺症もなく回復、回復した患者のうち11名がステロイド治療(メチルプレドニゾロン・パルス療法)を受けていたことが判明した。

こうして回復例と、死亡あるいは後遺症が残った例を比較したところ、脳症発症までの時間と血清クレアチニン値、メチルプレドニゾロン・パルス療法の施行に関して、統計学的に有意な差が見出されたという。これらの結果から、同研究グループでは、脳症に対するステロイド治療の有効性が示唆されたとしている。

腸管出血性大腸菌脳症患者の血液でも炎症性サイトカインが増加、今後の研究進展に期待

ステロイドは炎症性サイトカインの過剰な作用を抑制する効果があることから、従来より炎症性サイトカインの病的意義が解明されているインフルエンザ脳症などでは、ステロイド治療が広く行われている。

一方、腸管出血性大腸菌による脳症では、志賀毒素の役割が最重要視され、ステロイド治療は行われてこなかったという。しかし近年の研究で、腸管出血性大腸菌脳症患者の血液でも炎症性サイトカインが増加しているということが判明してきている。

今回対象とした集団食中毒事例でも脳症患者の治療に当たった種市医師らは、こうした事実に基づき、ステロイドなどの炎症性サイトカインを抑制する治療を、2011年5月から積極的に導入してきたという。その結果、脳症を発症した患者の治療成績は際立って改善したそうだ。

これらのことから、同研究グループは、ステロイド治療が腸管出血性大腸菌の脳症における有効な治療法の有望な候補であると考えられるとした。今後のさらなる研究を通じ、確実性の高いエビデンスを積み重ねることで、治療法として確立されてゆくことが期待されている。(紫音 裕)

▼外部リンク

東京大学 プレスリリース
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/

Clinical and Radiological Features of Encephalopathy during 2011 E. coli O111 Outbreak in Japan
http://www.neurology.org/content/early/2014/01/17/

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