緑内障の発症メカニズム解明と分子標的薬の開発が切望されている
京都府立医科大学は11月28日、原発閉塞隅角緑内障患者および非緑内障健常者由来のゲノムDNAを用いて大規模なゲノムワイド関連解析を実施し、原発閉塞隅角緑内障に関連する新たなゲノム領域を同定することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科ゲノム医科学の田代啓教授、視覚機能再生外科学の外園千恵教授、感覚器未来医療学講座(寄附講座)の木下茂教授らの研究グループの国際共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
緑内障は、眼圧を主要な要因として網膜神経節細胞が傷害され、視機能障害が不可逆的に進行する。最終的には失明に至る疾患であり、日本における中途失明原因の第1位となっている。緑内障の標準的な治療法は、眼圧降下薬の点眼治療である。しかし、眼圧下降により緑内障の進行の抑制はできるものの、緑内障を治癒させることはできない。
日本人の大規模な疫学調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の有病率は約5%(病型別では原発開放隅角緑内障が3.9%、原発閉塞隅角緑内障が0.6%を占める)と高く、70代では有病率が10%にも上昇することから、超高齢社会を迎えている日本にとっては深刻な疾患である。このため、緑内障の発症メカニズムの解明を起点とした分子標的薬の創生による根治療法の開発が切望されている。
原発閉塞隅角緑内障の人種差解明を目指し、大規模ゲノムワイド関連解析を実施
研究グループは、これまでに緑内障の主要な病型(原発開放隅角緑内障、原発閉塞隅角緑内障および落屑緑内障)に対するゲノムワイド関連解析を実施し、緑内障の発症に関連する多数のバリアントを同定し、遺伝的要因の解明を進めてきた。2016年には国際共同研究により、アジア人検体を主とした原発閉塞隅角緑内障の大規模なゲノムワイド関連解析を実施し、関連する8つのゲノム領域を同定する成果をあげている。
今回の研究では、欧州系の白人検体を主とした原発閉塞隅角緑内障の大規模なゲノムワイド関連解析を実施することによって、原発閉塞隅角緑内障の病因・病態の人種差や特徴の解明を目指した。
同研究では、国際共同研究としてUKバイオバンク由来のデータ、または各国各施設での倫理委員会の承認とインフォームドコンセントを取得して収集した原発閉塞隅角緑内障患者(ケース)および非緑内障健常者(コントロール)の血液検体由来のゲノムDNAを用いて大規模なゲノムワイド関連解析および複数の検体集団によるメタ解析を実施した。さらに、同定されたバリアントと眼の形質との関連性を検討し、関連が認められた形質を規定するバリアントとの統合解析を実施した。また、統合解析データをもとにポリジェニックリスクスコアを構築し、別集団を用いた発症リスク予測の判別能の評価を試みた。
UKバイオバンク由来のデータを解析、白人に固有なゲノム領域を特定
探索ステージにおいては、UKバイオバンク(欧州系白人集団)由来のケース1,564検体およびコントロール43万9,185検体由来のデータに基づくゲノムワイド関連解析を実施した。
その結果、5つの有意なゲノム領域が同定され、このうち2領域がアジア人と共通であった。白人に固有な領域には、虹彩や肌、髪の色を決めるメラニンの合成に関与するHERC2遺伝子や、虹彩の形態や色に関連するSEMA3A遺伝子が含まれていた。また、6つの白人集団(豪州、ブラジル、イタリア、フィンランド、英国、米国)を加えた7集団でのメタ解析(ケース3,183検体/コントロール77万3,214検体)を実施したところ、10領域を同定することができた。この中には、屈折異常や眼軸長の短さに関連するLAMA2やDENND1A遺伝子が含まれていた。
人種を超えた21集団でメタ解析を実施、新たに12領域を同定
さらに、アジア人の14集団(日本、韓国、中国、香港、インド、シンガポール1・2、ベトナム、マレーシア、インドネシア、ミャンマー、ペルー、フィリピン、タイ)によるメタ解析(ケース6,034検体/コントロール1万5,071検体)を実施。最終的に、人種を超えた白人7集団とアジア人14集団を統合したメタ解析(ケース9,217検体/コントロール78万8,285検体)を実施した結果、新たに12領域を同定することができた。
以上の結果から、原発閉塞隅角緑内障には人種を超えて共通するバリアントだけでなく、それぞれの人種に固有なバリアントが存在することが判明した。また、同定されたバリアントの中には、眼の形質と共通するバリアントも存在することが明らかになった。
白人では眼軸長の短さや屈折異常が発症に寄与することが判明
次に、白人集団において同定されたバリアントの中に眼の形質と関連するバリアントが含まれていたことから、メンデルランダム化解析により両者の関連性を詳細に検討したところ、白人患者においては眼軸長の短さと屈折異常(遠視)が原発閉塞隅角緑内障の発症に寄与していることがわかった。
この結果から、原発閉塞隅角緑内障の発症と屈折異常との関連性が示唆されたため、Multi-trait analysis of GWAS(MTAG)により屈折異常に関連するバリアントデータとの統合解析を実施した。その結果、統計学的検出力の向上により原発閉塞隅角緑内障に関連するバリアントとして総計134領域を同定することができた。
ポリジェニックリスクスコアを構築、高スコア群のオッズ比9.81で高い判別能を確認
そこで、統合して取得したバリアントデータに基づくポリジェニックリスクスコアを構築し、別の白人集団(EPIC-Norfolk Eye Study)に対して発症リスクの予測を試みた。
その結果、健常者のスコア(Q1)に対する高スコア群(Q5)におけるオッズ比は9.81を示しており、高い判別能を有するポリジェニックリスクスコアが構築できたと考えられた。
原発閉塞隅角緑内障の発症メカニズムの解明やリスク予測法の開発に期待
今回の研究において、大規模ゲノムワイド関連解析を実施した結果、原発閉塞隅角緑内障に関連する新たなバリアントが同定され、人種による共通性と差異を見出すとともに、白人集団においては眼軸長の短さや屈折異常(遠視)との関連性を示すことが明らかになった。また、屈折異常に関連するバリアントとの統合解析の結果、新たに134領域を同定することに成功した。さらに、統合解析データに基づくポリジェニックリスクスコアを構築することで、高い判別能を示す発症リスク予測法を確立することができた。
「本研究成果は、同定されたバリアントを起点とした原発閉塞隅角緑内障の発症メカニズムの解明につながることが期待される。また、ポリジェニックリスクスコアの構築に用いるバリアントデータのさらなる拡充を図ることで、より高精度な発症リスク予測法の開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都府立医科大学 新着ニュース


