ヒトの色覚は先天的な特性や視覚的障害の種類に依存する
産業技術総合研究所は10月31日、同研究所が収集したデータに基づき、色弱とロービジョンの色の見えの実態に基づく色の組合せ法を定める国際規格「ISO24505-2:2025」が発行されたと発表した。この研究は、同研究所人間情報インタラクション研究部門の伊藤納奈副研究部門長、佐川賢名誉リサーチャーらの研究グループによるもの。

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ヒトの色覚は、先天的に異なる特性や視覚的障害の種類に依存する。見やすい色の組合せはこうした人間の多様な色感覚に依存するため、これまで統一的な方法が開発されてこなかった。そのため、特に色弱(医学的な色覚異常)やロービジョンの人々は、日常生活において色の識別に多大な不便があることが多く、社会的配慮が必要とされてきた。色弱は理論による見え方の推測はされていたが、実際の色の識別に関するデータは少なく、またロービジョンは、疾患や視覚障害の程度によって見え方が異なることから、一律の対応が難しいとされてきた。
従来の規格、色弱・ロービジョンへの対応に課題
こうした問題に対処するため、同研究所はカテゴリー性に基づく色の基本色領域(色空間において、ある基準となる色と見え方が類似していると知覚される色の領域)の計測を進め、色の類似度による領域が形成されることから、見えにくさには共通点があることを明らかにした。
この発見に基づき、研究グループは見やすい色の組合せ方法を開発した。この手法は当初ISO/TC 159(人間工学)/SC 5(物理環境の人間工学)/WG 5(特別な配慮を必要とする人々のための物理環境)において「ISO24505:2016」として若齢者と高齢者を対象とした色の組合せ規格として発行され、その後、シリーズ規格の「ISO24505-1:2025」として改訂・再編された。しかし、開発の際には、「色の見えにくい人々に配慮した規格も必要である」という意見が寄せられていた。
色弱とロービジョンの当事者団体の協力を得て、5年以上視覚特性データを収集
これを受けて、色弱者やロービジョンのような色の識別が困難な人々に対して新たな規格を作成することになった。規格策定のためには、基礎資料として色弱とロービジョンの実際の色の見え方に関するデータが必要となる。また、計測に関して参加される方々の視機能の医学的検査も求められる。そこで同研究所では、メディアなどを通じた声掛けに加え、色弱とロービジョンの当事者団体への協力依頼も行い、5年以上かけて、これまでにない規模の多数の観測者のデータを収集した。
色の識別が困難な人に対する新たな規格「ISO 24505-2」作成
そのデータベースに基づいて色弱やロービジョンのための色の組合せに関する規格原案が作成され、ISOにおける審議を経て今回、規格ISO 24505-2」が発行された。同規格は、視覚的な標識や表示物において複数の色を組み合わせて用いる際、色弱やロービジョンの人々にも見やすく、識別しやすい色の組み合わせを作成するための方法を規定するものである。この方法はISO 24505-1で規定された手法に基づいているが、同規格では色の識別に困難がある人向けの色の組み合わせと、その基になる基本色に関するデータに焦点を当てている。
色弱は1型2色覚・2型2色覚、眼疾患によって引き起こされるロービジョンを対象
同規格では、色弱の典型例として1型2色覚(赤色受容体欠落)及び2型2色覚(緑色受容体欠落)を対象としている。3型2色覚(青色受容体欠落)や異常3色覚(受容体応答異常)について、学術的に対象者が不在または十分なデータがないため対象外としている。「ロービジョン」とは、光学的な屈折矯正(眼鏡、コンタクトなど)では改善されない極度の視力低下や視野の制限(中心視のみ、または周辺視のみ)を伴うさまざまな眼疾患の状態を含む。同規格は、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、緑内障、白内障などの眼疾患によって引き起こされるロービジョンを対象とするが、同様に重度の視力低下を伴う「弱視(amblyopia)」については、医学的に異なる分類とされるため対象外である。
同規格は、基本的に反射光または物体色モードの色を対象としているが、自己発光モード(ディスプレー表示など)であっても、その色度座標を適切に物体色モードへ変換することで適用可能である。なお、安全に関わる用途のための色の選定及び組み合わせについては、ISO 3864-1:2011に準拠するものとしている。また、この規格もISO24505-1と同様に、色弱およびロービジョンの基本色領域のデータに基づいて1)非常に識別しやすい色の組み合わせ、2)識別しやすい色の組み合わせ、3)やや識別しやすい色の組み合わせの3段階で配色の見やすさを表しており、それぞれの色のカテゴリーに属する色をマンセル表色系上から選んで配色することができる。
視覚表示物や日常生活製品のデザインで、誰もが色の違いを認識できる配色の方法を規格化
同規格を活用することにより、これまで色の識別が困難だった色弱やロービジョンの人々に対して、誤認や見落としのない配色のデザインが可能となる。同規格は、製品やサービスの開発者やデザイナーによる活用とともに、ロービジョンや色弱の人が見えにくさを説明したり色使いの改善を要望したりする際にも役立つことを期待している。色の組合せは警告、注意、誘導、案内などの重要な視覚表示物の他、日常生活製品や環境の設計などに多く使われている。識別しやすい色彩情報によって、安全で快適な社会の構築が可能となる。同規格は、見えにくさへの理解を共有する手がかりとして、色弱やロービジョンの人々と、視覚標識や表示の設計・デザインに関わる人々をつなぐ懸け橋となることが期待される。さらに、アクセシブルデザインやユニバーサルデザインを通じて、見えにくさを抱える人を包含する社会環境の構築を、視環境の面から支援するものである。
より多くの人が安心できる社会へ、関連団体からも期待の声
特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)は「色覚の多様性に配慮した基準が国際規格として形になることを、大変心強く感じている。こうした取り組みが広がることで、より多くの人が安心して色を利用できる社会につながる」と期待を寄せている。また特定非営利活動法人日本障害者協議会からは「ロービジョンや色覚に特性のあるユーザーにとって、この国際規格が発行されることは、大変喜ばしく、かつ意義のあることである。この規格は、視覚標識や表示を設計、デザインする人々と私たちとの『共通言語』である。双方で大いに活用することで、多くの人々にとって視認しやすい環境を、共に作っていきたいと強く願っている。この規格の発行にご尽力くださった皆さますべてに、心から謝意を申し上げる」と、コメントがあったとしている。
今後は若年者・高齢者・ロービジョン・色弱のすべての人々に共通して見やすい色の組合せの規格を作成し、色覚の多様性を包含する色の組合せの国際規格3部作を完成させる予定である、と研究グループは述べている。
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・産業技術総合研究所 プレスリリース


