術前診断の難しさから不要な外科手術が増加
東京科学大学は10月23日、早期胃がんのリンパ節転移リスクを治療前に予測するリキッドバイオプシーモデルを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化管外科学分野の奥野圭祐助教、徳永正則准教授、絹笠祐介教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「United European Gastroenterology Journal」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
早期胃がんとは、胃がんの中でもがんの深達度が粘膜または粘膜下層にとどまるものを指す。リンパ節転移のない早期胃がんは、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡的切除で治療が可能である。しかし、約10~20%の症例ではリンパ節転移を伴い、外科的な胃切除術とリンパ節郭清が必要となる。
早期胃がんのリンパ節転移リスクを予測するバイオマーカーは未開発
現行の診断法では、治療開始前にリンパ節転移リスクを正確に評価・診断することが難しいため、結果として多くの早期胃がん患者が外科手術などの不要で侵襲的な治療を受けている。治療開始前に早期胃がんのリンパ節転移リスクを正確に評価・診断できれば、不要な治療を回避し、患者一人ひとりに最適な治療を提供する「個別化医療」の実現につながる。さらに、これにより治療後の生活の質(QOL)の向上も期待される。
近年、さまざまな分子バイオマーカーを用いた早期胃がんのリンパ節転移リスク予測に関する研究が世界中で進められている。しかし、多くの研究では手術で切除した組織検体を使用しており、治療開始前に予測が可能かどうかは明らかにされていなかった。そのため、実際に臨床現場で利用されている分子バイオマーカーは存在していない。
DNAメチル化6領域を同定、組織検体とCT所見で予測モデルを開発
研究グループは、早期胃がん患者から治療開始前に採取した血液検体を用いてバイオマーカー開発を行い、治療開始前にリンパ節転移リスクを予測できるリキッドバイオプシーモデルを開発した。
研究では、早期胃がんのDNAメチル化データを網羅的に解析し、リンパ節転移を伴う早期胃がんに特徴的なDNAメチル化異常を6領域同定した。これら6領域をバイオマーカーとして、そのDNAメチル化レベルを、同病院で胃切除術を受けた早期胃がん患者の外科手術検体を用い、メチレーションPCR法で測定した。
得られたメチル化レベルと術前に撮影したCT画像所見を組み合わせることで、早期胃がんのリンパ節転移を予測するモデルを開発した。開発したモデルはArea under the curve(AUC)0.84を示し、統計学的な解析においてリンパ節転移の独立予測因子であることが確認された。
リキッドバイオプシーとして検証、AUC0.86の高精度を達成
さらに、このモデルをリキッドバイオプシーに応用するため、治療開始前に採取した血液検体を用いて検証を行った。その結果、このモデルから算出されるスコアは、リンパ節転移陽性の早期胃がん患者で有意に高く、AUC0.86、感度70%、特異度95%でリンパ節転移を予測できることが示された。
約44%の外科手術回避の可能性、個別化医療実現に期待
最終的に、開発したリキッドバイオプシーモデルを用いることで、現在外科的胃切除術およびリンパ節郭清を受けている早期胃がん患者の約44%が外科的手術を回避し、内視鏡的切除による治療で対応可能となる可能性が示唆された。
今回の成果により、リキッドバイオプシーモデルを用いた早期胃がんの個別化医療の実現が期待される。
多施設検証や内視鏡治療患者でのモデル検証を計画
研究グループは今後、臨床応用に向けて国内外の複数施設で収集した臨床検体を用い、モデルの検証を行う予定だ。
「今回の研究では、臨床でリンパ節転移リスクが高いと診断され外科手術を受けた患者を対象としており、リンパ節転移リスクが低いと診断され内視鏡的切除を受けた患者は含まれていない。今後は、実際に内視鏡的切除を受けた早期胃がん患者においても、開発した分子診断モデルが良好に機能するかどうかを検証する予定だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京科学大学 プレスリリース


