職場コミュニケーション、オンライン環境では孤立している従業員を見つけることが困難
九州大学は10月20日、Slackのようなチャットツールのデータを分析し、貢献度と隣接度という2つの新しい指標による評価システムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院システム情報科学研究院の荒川豊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Information Processing」に掲載されている。

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働き方の多様化が進む現代において、リモートワークやハイブリッドワークの普及により、職場でのコミュニケーションはオンラインチャットツールに大きく依存するようになった。従来の対面中心の職場環境では、表情や行動から従業員の状況を把握することができたが、オンライン環境では孤立している従業員を見つけることが困難になっている。職場における孤立・孤独は、個人のメンタルヘルスや組織全体のパフォーマンスに深刻な影響を与える重要な社会課題となっている。同研究は、このような課題に対して、デジタルフットプリントを活用した革新的なソリューションを提案するものである。
チャットツールのデータ分析、コミュニティへの貢献度・隣接度で評価
研究グループは、組織で広く使用されているSlackのようなチャットツールのデータを分析し、職場の孤立リスク評価への新たなアプローチを提案した。オンラインチャット情報が潜在的な孤立リスク評価の指標として活用できる可能性を世界で初めて検証した研究である。
開発されたシステムは2つの新指標による分析を特徴とする。貢献度(Contribution Level)は、メッセージ送信数やリアクション数から算出される、コミュニティへの貢献度を示す指標である。隣接度(Adjacency Level)は、メンション、スレッド返信、リアクションなどから算出される、ユーザー間の関係性の強さを示す指標である。また、ソーシャルグラフによる可視化により、組織内のコミュニケーション状況を直感的に理解できるグラフ表示を実現し、孤立している従業員を視覚的に特定可能とした。さらに、国際的に使用されているUCLA孤独感尺度を用いた検証実験を実施し、九州大学の研究室メンバー48人を対象とした実証研究により科学的検証を行った。
孤独感の少ない従業員、隣接度が高
主要な研究成果として、オンラインでのコミュニケーション量が少ない従業員が必ずしも孤独感を抱いているわけではないことを科学的に証明した。一方で、孤独感の少ない従業員は隣接度が有意に高いことを発見し、オンラインコミュニケーションの活発さと対面での社会的つながりの強さに一定の関係性があることを示唆した。
オンラインチャット情報はリスク評価指標として有効、孤独の完全特定には課題
システムが可視化するコミュニケーション状況と実際のユーザー体験の整合性を確認し、オンラインチャット情報が潜在的な孤立リスクを評価する指標として活用できる可能性を示した。一方で、組織における孤独を完全に特定することはできないことも明らかになった。
相手を気遣うデジタルリテラシーの重要性を示唆
これまでの働きやすい職場づくりでは、オフィスレイアウトの改善や休憩スペースの設置など、物理的環境の整備が中心であった。同研究は、オンラインチャット空間も重要な「職場環境」として捉え、デジタル空間における居心地の良い情報環境の構築という新たな視点を提供する。また、従業員一人ひとりが、対面コミュニケーションと同様に、またはそれ以上に相手を気遣うデジタルリテラシーを身につけることの重要性も示唆されている、と研究グループは述べている。
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