視神経の再生を促すメカニズムには不明な点が多い
東京都医学総合研究所は7月26日、DOCK3とHAUS7の連携が視神経再生を促進することを発見したと発表した。この研究は、同研究所視覚病態プロジェクトの原田高幸プロジェクトリーダー、行方和彦研究員、篠崎陽一研究員らの研究グループと、東北大学大学院医学系研究科・眼科学教室の清田直樹医師(元・東京都医学総合研究所協力研究員)、中澤徹教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Science Advances」のオンライン版に掲載されている。

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ヒトの視覚は、目から脳へと情報を伝える「視神経」によって成り立っている。しかし、緑内障などの病気や外傷によって視神経が損傷すると、視機能が大きく低下し、重篤な場合には失明に至る。現在の医療においては、こうした損傷を受けた視神経の回復は極めて困難であるが、その主な要因として視神経の再生を促す仕組みが十分に解明されていないことが挙げられる。
視神経再生に関わる分子「DOCK3」の詳細な機能解析に挑戦
これまでに研究グループは、BDNF/TrkB経路によって活性化されるDOCK3が、網膜神経節細胞や視神経の保護・再生に不可欠であることを報告してきた。
そこで今回の研究では、DOCK3と連携して働く新たな分子を明らかにすることを目的とし、酵母ツーハイブリッド法(2つのタンパク質間の相互作用を検出するための実験手法)を用いてDOCK3と相互作用するタンパク質を網羅的に探索した。
新たな結合分子「HAUS7」同定、視神経の軸索伸長に寄与
その結果、微小管の形成と分岐に関与するHAUS7(HAUS augmin like complex subunit 7)というタンパク質をDOCK3の新たな結合因子として同定した。HAUS7はHAUS1~8で構成されるAugmin複合体の一員であり、Augmin複合体は微小管の分岐構造を形成する働きを持つことが知られている。
培養した神経細胞を用いた実験を行ったところ、DOCK3がHAUS7を細胞体から軸索の先端にある「成長円錐」まで運ぶ役割を持つことがわかった。成長円錐は、神経細胞が発達・再生する際に軸索や樹状突起の先端に形成される特殊な構造で、進むべき方向を制御する「先導役」を担う。DOCK3の発現をshRNAで抑制すると、HAUS7の成長円錐への輸送が減少し、軸索の伸長も抑制された。これらの結果から、HAUS7はDOCK3の制御によって神経軸索内を移動し、成長円錐に到達して軸索伸長に寄与していることが示された。
また、BDNFの刺激によって、DOCK3のY562部位がリン酸化され、このリン酸化によりHAUS7がDOCK3から解離することが明らかになった。
HAUS7は視神経の構造・再生に重要、マウスモデルで確認
次に、生体内でのHAUS7の役割を明らかにするため、HAUS7欠損マウスを作製し、視神経の構造と再生能力を解析した。電子顕微鏡を用いて視神経軸索を観察したところ、HAUS7欠損マウスでは、正常マウスと比較して軸索内の微小管の数が著しく減少していることが確認された。このことから、HAUS7が視神経軸索の微小管形成や維持に関与している可能性が示された。
さらに、視神経外傷モデルを作製し、軸索再生を促進する遺伝子治療を実施したところ、HAUS7欠損マウスでは正常マウスに比べて視神経の再生能力が大きく低下していた。これらの結果から、HAUS7は視神経軸索内の微小管の安定化を通じて、視神経の再生に不可欠な役割を果たしていることが示された。
緑内障や視神経損傷にもHAUS7が関与する可能性
視神経外傷に加えて、日本における失明原因の第1位である緑内障との関連についても検討した。公開データベースを用いた遺伝子発現解析の結果、緑内障モデルマウスではHaus7およびDock3遺伝子の発現が低下していることを見出した。一方で、軸索再生を促進する遺伝子治療を受けた視神経損傷モデルマウスの網膜神経節細胞では、Haus7遺伝子の発現が高いことを確認した。
視神経疾患の新たな治療法開発に期待
今回の研究結果から、DOCK3の結合分子であるHAUS7が軸索再生に不可欠であり、視神経の再生にも重要な役割を果たしていることが明らかになった。さらに、緑内障モデルにおいてHaus7の発現が低下していることが確認され、HAUS7の機能障害が緑内障における視機能障害の一因である可能性が示唆された。
緑内障に対しては現在、眼圧を下げる治療法が中心であり、視神経の損傷からの回復は困難とされてきた。しかし、同研究で明らかとなったHAUS7およびAugminファミリー分子の軸索再生における重要な役割は、失明予防や視力回復を目指す革新的な治療法の創出につながることが期待される。「今後はHAUS7の機能や作用機序をさらに詳細に解明し、緑内障や視神経外傷に対する効果的な視機能回復法の開発に向けた研究を進めていく」と、研究グループは述べている。
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・東京都立医学総合研究所 プレスリリース


