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ダニ舌下免疫療法の開始で、小児の入院・抗菌薬使用が減少-成育医療センター

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2025年08月12日 AM09:30

小児アレルギー性鼻炎に対するダニ舌下免疫療法、入院予防・抗菌薬処方抑制効果は?

国立成育医療研究センターは7月22日、アレルギー性鼻炎の治療法であるダニ舌下免疫療法(SLIT)について、小児を対象とした全国規模のリアルワールドデータを解析し、その実臨床効果を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保祐輔室長、免疫アレルギー・感染研究部の森田英明部長の研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

従来、SLITがアレルギー性鼻炎の症状改善に有効であることは広く知られていたが、5~12歳の小児に対する有効性や、喘息発作などによる入院の予防効果、抗菌薬処方の抑制効果はわかっていなかった。

アレルギー性鼻炎は、世界で25%の小児と40%の成人に影響を及ぼすとされ、日本でも有病率は1998年の29.8%から2019年には49.2%へと大幅に上昇している。SLITは症状緩和とQOL向上に寄与する根治的治療であるが、国内外の実臨床下における効果検証、とりわけ5~12歳の小児を対象とした長期データは限られている。

SLIT導入の小児、抗菌薬使用が約13.7%減少・入院率も約65.2%減少

今回の研究では、株式会社JMDCが提供する医療保険レセプトデータを用いて、2015~2021年度にSLITを開始した1万3,449人と、同時期にこの治療を受けなかったアレルギー性鼻炎の173万2,961人を特定した。これらのデータから、傾向スコアマッチングで患者背景が類似した各群の1万985人を抽出し、3年間追跡して抗菌薬の使用、入院率(入院日数/1,000人)、医療コストを解析した。
さまざまな疾患に対する効果を見逃さないために対象疾患を絞らず、またレセプトデータの性質上、診断名の精度や一貫性には限界があることから、理由を特定する解析には不確実性が伴うため、主要アウトカムを「全抗菌薬使用」「全入院」「全医療費」としている。
解析の結果、SLIT導入の36か月後には、全抗菌薬処方が13.7%減少(95%信頼区間:7.7%減~20.2%減)し、入院率は65.2%減少(95%信頼区間:52.8%減~74.4%減)したことがわかった。一方、総医療費は8.9%の増加(95%信頼区間:-12.0%~+34.7%)にとどまり、影響は少ないといえる。このSLITの持続的な有効性は、5〜19歳の小児で認められた。

SLITによる感染症リスク低下に3つの可能性

アレルギー性鼻炎を対象とした治療であるSLITが抗菌薬の使用を大幅に抑制した明確な理由は明らかになっていないが、研究グループは今回の成果により、下記の可能性を示した。
(1)ハウスダストなどに対するアレルゲン特異的IgE抗体は、免疫細胞に作用し抗ウイルス免疫応答を抑制させることが知られている。SLITにより、抗ウイルス免疫応答を抑制させる力が弱まることで、結果的に抗ウイルス免疫応答が強化され、感染症のリスクが低下した可能性がある。
(2)SLITによりアレルギー性鼻炎の症状が改善し、抗菌薬を必要とするような持続性の咳や副鼻腔炎などの疾患の発症リスクを低下させた可能性がある。
(3)SLITを開始することにより、継続的な診療がなされ、喘息の薬物療法の強化とともに、喘息の症状コントロールが改善した結果、感染症のリスクが低下した可能性がある。

小児通年性アレルギー性鼻炎治療に対し、有効性と費用対効果を両立

今回の研究結果により、SLITは小児の入院を大きく減少させ、抗菌薬使用の減少効果もあり、また医療費への影響が少ないことから、小児の通年性アレルギー性鼻炎の実臨床においても有効な治療法であることが示唆された。「重症化予防や薬剤耐性菌対策の観点からも、SLITは小児アレルギー診療の重要な選択肢になると期待される。今後は、治療終了後も含めた長期効果の検証が課題だ」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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