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院外心停止、病院到着からECPR開始までの時間短縮が生存率改善-名大ほか

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2025年08月08日 AM09:30

難治性心停止、Door-to-ECPR time短縮の重要性を裏付けるデータは少ない

名古屋大学は7月18日、日本救急医学会院外心肺停止レジストリ(JAAM OHCA)を解析し、「病院到着から体外式心肺蘇生開始までの時間の施設中央値」が短い病院ほど、生存率および良好な神経学的転帰が有意に高いことを明らかにしたと発表した。今回の研究は、同大医学部附属病院救急科の春日井大介病院助教、シンガポール国立大学Duke-NUS medical school Health Services and Systems Researchの岡田遥平助教、名古屋大学医学部医学科の水谷友香学部学生、同大医学部附属病院循環器内科の風間信吾病院助教、近藤徹病院助教、救急科の山本尚範講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
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突然の心停止は、心臓と肺が急に働かなくなる緊急事態で、通常の心肺蘇生(CPR)だけでは回復しない「難治性心停止」では死亡率がとても高くなる。その切り札として近年注目されているのが体外循環式心肺蘇生(ECPR)である。ECPRでは、体外式膜型人工肺(ECMO)装置を用いて血液の循環と酸素化を代行し、心臓が再び動き出すまで患者を支える。

ECPRを開始するまでの一連の流れは、手技やチーム連携が複雑である。国際組織ELSOは2021年のガイドラインで「心停止から60分以内に十分なECMO流量を確立すべき」と勧告しているが、この根拠となるデータはまだ十分ではない。とりわけ注目されるのが「Door-to-ECPR time、すなわち、患者が病院に到着してからECMOが動き始めるまでの時間である。1人ひとりの患者レベルでは、この時間が3分延びるごとに神経学的な予後が悪化するとの報告があり、短縮が強く求められている。チームとして診療の質を高める上で、病院レベルのDoor-to-ECPR timeに関する指標は「その病院のECPR体制の質」を反映する可能性があるが、これまでの研究は単一施設が多く、その意義はよくわかっていなかった。

2,136例を解析、Door-to-ECPR time中央値が27分以内で30/90日後の生存率改善

今回の研究では、JAAM-OHCAレジストリに登録された2,136例のECPRが実施された難治性院外心停止患者を解析し、Door-to-ECPR timeが短い病院ほど救命率と神経学的転帰が良好であることを明らかにした。具体的には、中央値が27分以内の病院を「迅速導入病院群」に、27分より遅い病院を「遅延導入病院群」に分け、「迅速導入病院群」では、30日後の生存率が「遅延導入病院群」の約1.4倍、90日後には約1.5倍に向上し、良好な神経学的回復の割合も同程度に改善した。さらに、症例数が多いほどDoor-to-ECPR timeが短縮する傾向が認められ、経験とチーム連携が重要な要因であることが示唆された。全国平均では2014~2021年の8年間で年間約1分ずつDoor-to-ECPR timeが短縮しており、全国的なパフォーマンスは徐々に向上していることも確認された。

改善のための具体的要素解明、どの施設でも再現可能なプロトコル策定につながる可能性

今回の研究によって、施設レベルで病院到着からECPR開始までの時間が短いことが生存率と神経学的転帰の改善に結び付く可能性が示された。この知見から、今後は病院レベルのDoor-to-ECPRという時間目標を質評価指標として活用し、全国レベルで共有・可視化する枠組みを整えることが有望と考えられる。指標の公開とフィードバックは、施設間のベンチマークを促し、自然と改善サイクルを生み出す契機になると期待される。加えて、Door-to-ECPR time短縮に寄与する具体的要素を明らかにするためには、ECMOチームの人員構成、シミュレーション訓練の実施状況、カニュレーション機器の配置など、より詳細な院内データの収集と解析が求められる。こうしたデータを多施設で共有し、効果の高い取り組みを検討することで、症例数の少ない施設でも再現可能な標準プロトコルの策定が進むと見込まれる。

「さらに、救急隊とのリアルタイム情報連携を強化し、病院到着前からECMOチームが準備に着手できるプロアクティブな搬送体制を検討することが、Door-to-ECPR timeの追加短縮につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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