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骨が長く伸びる仕組みの一端を明らかに−京大

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2019年04月12日 PM01:45

軟骨細胞を生体に近い状態で観察する手法を開発して解析

京都大学は4月10日、軟骨細胞内カルシウムイオン()を独自の手法で解析することによって、発生に伴って骨が伸びる際、TRPM7という陽イオンチャネルを介して自発的に細胞内に流入するCa2+が、軟骨の正常な機能に必要であることを発見したと発表した。この研究は、同大薬学研究科の市村敦彦特定助教、銭年超特定研究員(現:精華大学博士研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は「Science Signaling」に同日付でオンライン掲載された。


画像はリリースより

細胞内Ca2+は、受精、筋収縮をはじめ、いろいろな生理機構に必須と言えるほど重要なシグナル分子として働いている。一方で、Ca2+シグナルの詳しい仕組みや担っている生理的な役割がまだ解明されていない細胞も多く残されている。研究グループはこれまでに、細胞内 Ca2+の制御に関わる分子の機能を解析してきており、小胞体にあるイオンチャネルの機能不全が、骨芽細胞の機能を障害し、全身の骨形成が不全となることを見出した。今回はこれを受けて、未解明な部分の多い、軟骨細胞と細胞内Ca2+について、研究を行ったという。

軟骨細胞は、関節のような立体的な組織として存在しているため、体の外で体内と同じ形に保って培養するのがとても難しいという事情により、研究が困難だった。そこで研究グループはまず、軟骨組織に存在する軟骨細胞を出来るだけそのままの状態で観察する手法を開発。具体的には、新生直前(胎生17.5日齢)のマウスから大腿骨を取り出し、およそ60マイクロメートル(µm:マイクロは 100 万分の 1)という薄さでスライス培養試料を作り、これを用いて細胞内 Ca2+の状態を観察するという新たな手法を確立した。

TRPM7が自発的Ca2+変動と骨の形成に影響

研究グループは、新たに開発したスライス培養軟骨組織を使って軟骨細胞内でどのようにCa2+が振る舞っているのかを観察。軟骨細胞内で細胞内Ca2+濃度が人為的な刺激がなくても自発的に上昇と下降を不規則に繰り返していることを発見した。さらに詳しく解析をしたところ、自発的Ca2+変動を引き起こしている鍵分子の1つとして、TRPM7という2価の陽イオンチャネルを発見した。

そこで次に、この現象が軟骨細胞のどういった生理的な機能に関与しているのかを調べるために、軟骨細胞でだけTRPM7が働かないようにしたマウスを作り出して解析した。その結果、体外で培養したTrpm7遺伝子欠損指軟骨組織および、全身の軟骨細胞でTrpm7遺伝子が欠損した成体マウスの大腿骨のいずれにおいても、骨の伸長が著しく障害され、野生型と比較して短くなった。また、骨をさらに細かく解析した結果、Trpm7遺伝子が働かないことで自発的Ca2+変動が抑制されるとともに、軟骨細胞の正常な分化成熟が阻害されていることがわかった。流入したCa2+がCaMKIIという酵素を活性化して遺伝子発現を調節している可能性が高いこともわかり、軟骨において細胞内Ca2+が果たしている生理的な役割やその分子メカニズムの一端を解明した。

今後、さらなる研究によりTRPM7の活性化が軟骨機能を刺激できることが明らかとなれば、TRPM7を標的とした新たな骨折治癒促進薬の開発などへとつながることが期待される。また、関節へ移植する培養軟骨の質を向上させ早く提供するような技術へ応用出来る可能性もある。今後研究グループは、整形外科や移植軟骨を取り扱う民間企業との共同研究を行いこれらの可能性について、さらに追求する予定としている。

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