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肺炎球菌のゲノム情報を利用し、病原因子を発見-阪大

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2019年03月15日 PM12:15

進化の選択圧を解析することで重要な病原因子を選出

大阪大学は3月11日、肺炎球菌のゲノム情報から、進化の選択圧を解析することで、重要な病原因子を選出することに世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科の山口雅也助教、川端重忠教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Communications Biology」に掲載されている。


画像はリリースより

現在、薬剤耐性菌による感染症が世界的な問題となっている。感染症に対する治療薬を開発するには、ワクチンや抗菌薬などの薬剤の標的候補として、病気を引き起こす原因となる病原因子を決定する必要がある。しかし、病原因子を探索する従来の手法では、解析に必要な時間とコストが高いと言う問題点があり、試験管内で得られた結果が動物感染モデルや臨床試験で得られないこともあった。そこで今回、研究グループは細菌の進化と病原性に着目し、病原細菌のゲノム情報を活用した、薬剤標的の新たな探索手法を確立することとした。

タンパク質CbpJが肺感染時の病原因子として働いていることが判明

ある遺伝子に対する変異が細菌の繁殖に不都合な影響を及ぼす場合、世代が進むにつれてそのような変異は細菌集団の中で消えていく(負の選択または負の淘汰)。逆に、菌の繁殖に有利な影響を及ぼす場合、変異は細菌集団の中で広まっていく(正の選択または正の淘汰)。このように、自然環境中における生存率の差から一定の方向に進化させる力を「選択圧」という。研究グループは、進化の選択圧により変異が許容されていない分子は、菌の生存に重要な役割を果たしていると考え、実際のヒトに感染した結果生じた遺伝子変異から、細菌が発現するタンパク質の進化的な保存性を評価した。

まず、菌体の表面に局在するタンパク質群について分子進化解析を実施。菌の表面にあるタンパク質は、外部の環境の影響を受けやすい部位に存在する。分子進化解析の結果、肺炎球菌の主要な病原因子の1つとして知られている自己融解酵素LytAと、詳しい機能が明らかにされていないタンパク質であるCbpJの2つが、特に進化上変異が制約されている割合が高いことがわかった。そこでCbpJについて、細胞や動物を用いた感染モデルでの実験を行った。その結果、これまで病原性に及ぼす影響が明らかとなっていなかったタンパク質CbpJが、肺炎球菌の肺感染時の病原因子として働くことが明らかになった。

今回得られた手法は、他の細菌にも適用可能。ゲノム情報から進化の過程で変異が許容されなかった分子を選出することから、薬剤標的とした場合に変異による病原菌の耐性化が生じにくいことが期待され、研究成果は、創薬の時間とコストを短縮し、耐性化の問題に対応する治療法につながると研究グループは述べている。

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