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中枢神経系原発悪性リンパ腫、R-MPV療法の治療効果を90分以内で予測判定-名大

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2023年01月12日 AM11:26

PCNSLのR-MPV療法、希少なため長期予後や感受性因子のデータは不十分

名古屋大学は1月11日、85症例の中枢神経系原発悪性リンパ腫()の遺伝子異常と予後の統合解析を行い、 Y196変異は、PCNSLに対するR-MPV療法の良好な反応性の予測因子になることを同定、また、PCNSLで特異的かつ高頻度にみられるMYD88 L265P変異を診断マーカーとして、 L265P変異とCD79B Y196変異を同時にかつ迅速に解析するシステムを開発し、PCNSLの分子診断と治療反応性の予測を90分以内で判定することが可能となったと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科脳神経外科学の山口純矢医員、大岡史治講師、齋藤竜太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Medicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

PCNSLは、まれな脳腫瘍であるが高齢者に好発し、近年の高齢化に伴いその発症数は増加している。多くの悪性脳腫瘍と異なり化学療法、放射線療法に感受性が高く、手術は診断を目的とした生検術にとどめ、放射線化学療法を行うことが基本治療方針となる。化学療法の発達に伴い予後は改善してきているが、長期生存者では認知機能の低下などをきたす放射線治療後の晩期障害が問題となるため、化学療法の強度をあげ、放射線治療の強度を下げる、または省略するという方針で治療戦略の開発が進んでいる。現在は、減量放射線療法を併用したR-MPV療法が国内外で広く行われているが、その疾患の希少性から、R-MPV療法の長期予後、感受性因子については、まとまった症例数を用いては調べられていなかった。また、近年の網羅的遺伝子解析により、PCNSLではMYD88遺伝子、CD79B遺伝子の点突然変異が高頻度に見つかることが報告されているが、これらの遺伝子変異と予後の関係についても十分に調べられていなかった。そこで研究グループは、これまでの標準的な治療であったHD-MTX療法と比較したR-MPV療法の長期予後、MYD88 L265P変異、CD79B Y196の変異と予後の関係性についての検討を行った。

85例のPCNSLを解析、CD79B Y196変異はR-MPV療法への良好な反応性の予測因子

85症例の初発のPCNSLを対象に遺伝子異常と予後の関係性を調査した。85症例中、21例がHD-MTX療法、64症例がR-MPV療法で治療を受けていた。R-MPV療法は、HDMTX療法と比較して有意に予後良好だった(:5年無増悪生存率/全生存率=82.5%/61.6% vs HD-MTX療法:5年無増悪生存率/全生存率=47.7%/23.8%、ログランク検定:無増悪生存期間/全生存期間=P<0.001/P=0.021)。長期生存者ではR-MPV療法治療群で、良好な全身状態が保たれている傾向が示された。遺伝子解析の結果、MYD88 L265P変異は70.2%、CD79B Y196変異は40.4%の症例で同定された。MYD88 L265P変異の有無と無増悪生存期間、全生存期間の間に関係性は認められなかったが、CD79B Y196変異が陽性であった症例では、R-MPV療法で治療が行われた場合、無増悪生存期間、全生存期間が有意に延長していた(CD79B Y196変異陽性:5年無増悪生存率/全生存率=88.8%/88.8% vs CD79B Y196変異陰性:5年無増悪生存率/全生存率=50.0%/58.1%、ログランク検定:無増悪生存期間/全生存期間:P=0.028/P=0.040)。この結果はHD-MTX療法で治療を受けた症例群では認められず、CD79B Y196変異はR-MPV療法の良好な反応性を予測する因子であることがわかった。

2つの変異を同時かつ迅速に検出可能なシステムで治療反応性を予測

MYD88 L265P変異は悪性脳腫瘍の中ではPCNSLに特異性が高く診断マーカーとして応用が可能であり、CD79B Y196変異と同時に判定することで、PCNSLの分子診断とR-MPV療法の反応性を同時に判定するシステムの開発を行った。PCNSLの診断目的に生検術を予定された連続4症例に対して、採取された腫瘍組織から遺伝子を抽出し、本システムで解析を行ったところ90分以内に正確な判定を得ることができた。

今回、研究グループは、名古屋大学医学部附属病院、名古屋医療センター、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院、江南厚生病院、豊橋市民病院、安城更生病院で治療を行ったPCNSLの85症例を解析することで、R-MPV療法の優れた長期成績、CD79B Y196変異のR-MPV療法における良好な感受性の予測因子としての役割を明らかにし、MYD88 L265P変異とCD79B Y196変異の同時迅速解析系を開発した。「これまでは、PCNSLの診断には生検術後1週間ほどを要していたが、本システムにより生検術後に速やかに分子診断がつくことで化学療法の導入の迅速化が可能であり、またCD79B Y196変異の有無を軸にした、放射線治療の省略などの治療強度の層別化への応用により、長期生存者の晩期障害の軽減が期待される」と、研究グループは述べている。

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