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視神経脊髄炎の炎症を制御する新たな分子メカニズム、新規治療法を発見-阪大ほか

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2022年03月15日 AM11:30

女性に多い中枢神経の炎症性疾患NMO、発症は平均40歳

大阪大学は3月12日、重篤な神経障害を呈する視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica:NMO)の動物モデルを用いて、炎症を制御する新たな分子メカニズムを解明し、その分子を標的とした抗体が顕著な治療効果を示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の糸数隆秀特任准教授(常勤)(創薬神経科学・分子神経科学)、山下俊英教授(分子神経科学・創薬神経科学/生命機能研究科、免疫学フロンティア研究センター兼務)、東北大学大学院医学系研究科の藤原一男教授、田辺三菱製薬株式会社の岩本祥佑研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Neurology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

視神経脊髄炎は、視神経炎による視力低下、および横断性脊髄炎による運動麻痺、感覚障害や疼痛などの症状をきたす中枢神経の炎症性疾患。女性に多く、発症年齢の平均は40歳、有病率は3~4人/10万人程度とされている。視神経炎や脊髄炎は重症で、失明や歩行不能状態に至ることもまれではない。

中枢神経内のアストロサイトを標的とした自己抗体(抗アクアポリン4(AQP4)抗体)によりアストロサイトが障害され、さらに好中球や好酸球、マクロファージなどの免疫細胞が病変部位に浸潤して重度の炎症を引き起こすことで中枢神経組織が破壊されることにより、重篤な神経症状が出現すると考えられている。NMO急性期におけるこれらの免疫細胞の浸潤を制御することができれば、病態の緩和が可能になることが期待されるが、その詳細なメカニズムは不明だった。

高親和性抗AQP4モノクローナル抗体を用いて作製したNMOモデルラットで検証

NMO急性期の詳細な病態解析のためには、実際にNMO患者で起こっている現象を反映するような動物モデルを用いることが重要であるが、既存のNMOモデル動物は病変や症状が軽微であることが弱点だった。

そこで今回、共同研究先の東北大学のグループが近年開発した、高親和性抗AQP4モノクローナル抗体を用いて作製したNMOモデルラットでの検証を行った。この動物モデルでは高度の脊髄病変と運動障害がみられることから、治療候補薬の効果を検証するのにも適していると考えられた。研究グループはこれまで、RGMaがさまざまな中枢神経疾患の病態にかかわっていることを明らかにしてきた。今回は上述のNMOモデル動物を用いて、RGMaおよびその受容体であるNeogenin(ネオジェニン)に着目して研究を行った。

RGMa中和抗体の投与により、運動機能障害および疼痛症状が緩和

NMOモデルラットの脊髄では、NMO患者と同様に、病変部位の血管から抗AQP4抗体が中枢神経内に漏れ出し、アストロサイトの障害が起こり、また、同部位において多数のマクロファージや好中球が浸潤していた。そこで詳細な組織学的解析を実施。その結果、脊髄内の神経細胞およびアストロサイトがRGMaを発現していること、さらに、浸潤してきたマクロファージがNeogeninを強く発現していることを見出した。これらの結果は、NMO患者の病理組織を用いた検証でも確認された。

続いて、NMOモデルラットにおいて、病態を惹起した翌日に抗RGMa中和抗体を投与してRGMaの機能を阻害し、その治療効果を検証したところ、運動機能障害の増悪を抑制する効果があることが確認された。

NMO患者では脊髄障害に起因する慢性疼痛が高頻度にみられるが、一般に難治性であり、患者の生活の質の大きな妨げになっている。しかし、NMOモデル動物を用いた疼痛の研究はほとんど行われていなかった。研究グループはNMOモデルラットが顕著な疼痛症状を呈することも発見し、神経障害性疼痛の病態研究モデルとして有用であることも示した。

さらに、抗RGMa抗体の効果についても検証したところ、無治療群(コントロール抗体投与群)では発症後3週間後まで疼痛が持続していたのに対し、抗RGMa抗体で治療した動物においては、一旦は疼痛症状を呈するものの、速やかに疼痛症状が改善していくことが明らかになった。

マクロファージがRGMaシグナルを受け取ることでCXCL2などのケモカインを過剰産生

研究グループはさらにメカニズム検証を進め、マクロファージがRGMaシグナルを受け取ることでCXCL2などのケモカインを過剰に産生するようになることを見出した。また、抗RGMa抗体で治療した動物では、病変部のマクロファージの数には大きな変化がない一方で、ケモカインの産生、および好中球の浸潤が著明に抑制され、アストロサイト障害も緩和されていることを明らかにした。

以上の結果から、中枢神経内に浸潤したマクロファージがRGMaを介したシグナルを受け取ることでケモカインを過剰に産生して好中球を呼び寄せ、神経炎症をさらに増悪させている可能性が示唆された。

幅広い神経疾患に対し、抗RGMa抗体投与が有効な治療法となることに期待

研究成果により、視神経脊髄炎の炎症を制御するRGMaを介した新規メカニズムが明らかになり、抗RGMa抗体が運動障害のみならず疼痛の緩和にも有効である可能性が示された。「今回明らかになったマクロファージと好中球の連関はさまざまな神経疾患における神経炎症病態に共通している可能性が高く、今後、幅広い神経疾患に対して抗RGMa抗体投与が有効な治療法となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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