医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 不適切な養育でオキシトシン遺伝子がメチル化、対人関係に影響する可能性-福井大ほか

不適切な養育でオキシトシン遺伝子がメチル化、対人関係に影響する可能性-福井大ほか

読了時間:約 3分12秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年11月19日 AM11:45

マルトリ児の治療・支援法開発には、神経生物学的な基盤の解明が必要

日本医療研究開発機構(AMED)は11月18日、マルトリートメント(不適切な養育、虐待など)を受けて育った子どもでは、オキシトシンペプチドの設計図となるDNA配列の一部領域が、一般の同年代の子どもに比べて、よりDNAメチル化され、オキシトシンの働き方が異なっている可能性があることを解明したと発表した。この研究は、福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究部門の西谷正太特命助教と友田明美教授らの研究グループと、米国・エモリー大学医学部産婦人科学教室のアリーシャ・スミス准教授との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

マルトリートメント(不適切な養育)とは、子どもが親から殴る、蹴るといった身体的虐待や性的虐待など直接的な虐待だけでなく、不適切な養育環境、暴言、家庭内暴力の目撃などを含む、より広い概念を指す。マルトリートメントを経験した子どもは生命の危機に至らない場合でも、うつ病を始めとする重い精神症状を患うことが多くある。将来的に高い衝動性、薬物依存とも関係している。

愛着(アタッチメント)は、「子どもと特定の母性的人物との間に形成される強い情緒的な結びつき」だが、マルトリートメントを経験した子どもは、安定した愛着がうまく形成されず、他者に対する社会的または感情的な反応性に問題を抱えるため、社会不適応が深刻化している。医療現場では、同様に対人関係・社会性に問題がある発達障害との混同などが起きていることも指摘されており、マルトリートメントが引き起こす多様な病態の理解を深め、治療・支援方法の開発につなげるためには、その社会的・感情的な問題に関与する神経生物学的な基盤を明らかにすることが必要だ。

マルトリ児はオキシトシン遺伝子のメチル化率「高」、特に5~8歳時の身体的虐待と関連

研究グループは、マルトリートメントという「育ち」の影響が、「生まれ」を規定するDNAのスイッチの「オン・オフ」の程度とどのように関連し、それが子どもの脳構造・機能に対してどのような影響を及ぼすのかについて明らかにすることを目的とした。そこで、対人関係の形成・維持に重要とされるホルモン「オキシトシン」に着目し、その合成に関わるDNAにおいて、どの程度スイッチがオフとなっているかを示す「DNAメチル化率」を解析し、子どもの脳の容積や活動、虐待を受けてきた時期や種類との関連性を調べた。

過去にマルトリートメントを経験した児童(以下、マルトリ児)24人(平均12.6歳)と一般の児童(以下、非マルトリ児)31人(平均14.9歳)を対象に唾液を採取し、唾液中DNAからマイクロアレイという方法でゲノム全体のDNAメチル化を網羅的に解析した。同研究では、このうち、オキシトシン遺伝子に注目し、その15か所のDNAメチル化の群間差を調べた。

その結果、マルトリ児では非マルトリ児に比べ、オキシトシン遺伝子のメチル化率が高いことが判明。さらに、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)を用いた脳形態・機能画像データ解析により、この領域のメチル化が多いほど、他者の視線認知と自身の眼球運動との連携に重要とされる背側注意ネットワーク内の左上頭頂葉容積の低下、報酬系ネットワーク内の右被殻の脳活動の低下が見られた。また、このDNAメチル化は、マルトリートメントを受けていた子どもの中では、特に5~8歳時にマルトリートメントを受けていたことや、身体的虐待を受けていたことにも関連があったという。

マルトリートメントにより脳構造・機能の非定型化を招き、トラウマ症状などを引き起こす可能性

さらに、マルトリ児の中でも身体的虐待を受けてきたほどの重症例では、右被殻と左上頭頂葉との機能的結合が強いことも明らかになった。これは、人の顔が視野に入ると罰を受けるかもしれないという嫌悪学習が行われ、それがこの機能的結合の過剰な興奮につながっているのではないかと考えられるという。

これらの結果から、マルトリートメントの経験がオキシトシン遺伝子のDNAメチル化を誘導し、それが脳構造・機能の非定型化と結びつくことで、マルトリ児に見られるトラウマ症状などを生じさせている可能性があることが明らかになった。

後天的なオキシトシン遺伝子の変化に着眼した治療法の開発に期待

今回の研究成果は、マルトリ児のオキシトシン遺伝子上に後天的に生じた分子変化を捉えたもので、今後の応用への道が期待される。これまでマルトリ児の予後QOL改善のために、心理治療や環境調整、薬剤投与など、さまざまな取り組みが行われているが、これらの効果を評価するための生物学的な指標はなく、また、治療のための標的分子も定まっていなかった。

「DNAメチル化には可逆的な性質があるため、同領域の脱メチル化を促進する手段や介入法が開発され、それが脳機能やトラウマ症状をも戻す効果を持つことが実証されれば、マルトリ児の脳の非定型発達の予防や予後精神疾患罹患リスクを低下するなど、QOLの向上のための全く新しい治療法が望めるかもしれない」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 女性型XLSA、iPS細胞技術で初の病態モデル作製、治療薬候補AZAを同定-CiRA
  • SLE患者に伴うステロイド関連大腿骨頭壊死症、疾患感受性遺伝子領域を同定-理研ほか
  • 高齢者の腎臓病の悪化に関わる原因細胞と分子を同定-京大
  • 脳動脈解離診療の国際ガイドラインを作成-国循ほか
  • IgG4関連疾患、診断での「類似疾患除外基準」有用性を確認-岡山大ほか